秋季総合特集Ⅴ(3)/北陸企業/M&Aで攻める、国産を守る/マルオリグループ/シモムラ

2026年10月30日 (金曜日)

 北陸産地では、事業を拡大する一つの手段としてM&A(企業の合併・買収)を活用する動きも出ている。各社でM&Aの狙いや背景は異なるが、新規事業の創出や核となる事業の領域拡大のほか、日本での生産を継続させるために廃業する工場を継承するケースもみられる。マルオリグループ(石川県中能登町)とシモムラ(同小松市)の事例を紹介する。

〈M&Aで成長を加速/UP―Tの周辺強化/マルオリグループ〉

 丸井織物を中核とするマルオリグループは、今年度(2026年12月期)からの新3カ年中期経営計画で、28年度に連結売上高500億円(25年度比47%増)を狙う。基本方針として「新事業とM&Aを掛け合わせて、新領域と海外市場を開拓」を掲げ、M&Aを積極化している。

 最初の大きな案件は、2017年の倉庫精練(金沢市、現アップティー)の買収だが、その後は新規事業として成長するオリジナルグッズのオンデマンドサービス「UP―T」の周辺領域拡大を視点にした案件が増えた。

 主なところでは、2018年にオリジナルグッズ作成のオリジナルラボ(東京都渋谷区)を買収し、19年はスポーツ衣料製造のウィル・テキスタイル(東京都中央区)を子会社化した。20年はスポーツウエア製造のウンドウ(東京都葛飾区)、21年はエコバッグなどをウェブで展開するカプセルボックス(横浜市)の買収に続き、アルファ(東京都品川区)からコンサートグッズやノベルティーグッズに関わる事業を譲受した。

 グループ会社が増える中で、23年にマルオリグループ(旧宮米織物)を持ち株会社とする持ち株会社制に変更し、経営体制を整えた。

 24年はレインウエアやワークウエアなどを製造・販売するカジメイク(富山県高岡市)を買収。今年はイベント総合会社のステージを買収した。UP―Tでは、アイテムの拡充とともにトークアプリや音楽フェスなどの周辺サービスも強化する中、シナジーが見込めると判断した。

 同社は、長期ビジョンで、100周年を迎える2036年に連結売上高1千億円を目指している。その達成に向けて、今期からの中計は「成長軌道の確立と新領域開拓の期間」と位置付けており、基本方針の中に初めて“M&A”を明記した。M&Aの対象も広げていく考えで、現在はIT関連だけでなく、テキスタイルや産業資材などの案件も調査しているという。

〈マルオリグループ 宮本 智行 社長/決断は人柄を重視〉

  ――これまでのM&Aを振り返ると

 最初は2017年の倉庫精練でしたが、その後はウィル・テキスタイルやウンドウなど小売りに近い所や、カプセルボックスやアルファの一部事業といった「UP―T」の強化につながるところで進めました。これまでのM&Aはうまくいったものもあれば、うまくいかなかったものもあります。全てが成功しているわけでなく、撤退した事業もあります。

  ――成功した案件との違いは。

 われわれのM&Aは、マルオリグループから社長を派遣するのではなく、今までの社長に継続してもらいながらグループと融和させていく形です。一番大きいのは人材、特にリーダーの差で、しっかりしたリーダーがいる案件はうまくいっています。例えば赤字だったオリジナルラボは黒字化し、ウィル・テキスタイルも大きく業績を伸ばしています。一方で、マルオリグループの理念とうまく融和できなかった案件もあります。成功率は70%ほどですね。

  ――M&Aを検討する際に重視する点は。

 デューデリジェンス(資産査定)の前の段階に時間をかけています。損益計算書やバランスシートなどの財務諸表は速く見ますが、そこに至るまでに半年ほどかけます。

 バランスシートや損益計算書などはもちろん見ますが、最も重視しているのは経営者が公私混同をしていないことです。例えば交際費です。交際費自体は悪いものではありませんが、あまりに多いところは避けます。社長の人柄も大事で、経営理念に合致するかどうか慎重に見ます。

  ――近年はM&Aを積極化している。

 いい案件が来るようになっています。近年の約半分は仲介を通さず直接進めたもので、やり続けた強みが出ていると思います。われわれはM&A後にその企業を大きく変えることはしません。他では少ない協和型のM&Aで、そこが評価されていることもあります。最近は後継者がいないが事業を先に残したいという話も多くなっています。

  ――M&A後の流れは。

 PMI(買収後の統合作業)は3~4カ月かけています。新たにグループに加わった主要幹部らにまずマルオリグループをしっかりと理解してもらい、意識の共有を図ります。この時にマルオリグループとしての中期計画も策定してもらっています。

  ――譲受後の運営で気をつけている点は。

 グループに入った時、社員は動揺するものです。その文化を尊重し、彼らが決めて、彼らが動かせるよう制度として作ることが必要です。一方で、ここはやってほしいというところがあります。やはりグループとしての統一感は必要なので、マルオリグループの社長になった今年から経営理念の唱和を始めました。これからマルオリグループの一体化を図っていきます。

  ――M&Aで加えた企業とのシナジーは。

 これまでに加わった企業とは、かなりのシナジーが出ています。グループ会社で横とつながっていないところはありません。ただ、案件を検討する際にそれだけを重視しているわけではありません。シナジーのためにというやり方ではうまくいかないでしょう。

  ――今後は。

 これまではネットやIT関連が中心でしたが、今はテキスタイルでも調査しています。案件が限られている面はありますが、産業資材などでも検討していきます。織物に限らず、不織布やニット、川下化など幅広い視点からM&Aを検討していきます。

〈生産場を残すM&A/糸加工から染色、製織まで/シモムラ〉

 繊維商社のシモムラは、2002年に現社長の西山成幸氏が設立した。糸商として創業したが、この間に廃業した工場の譲受やM&Aなどでグループの生産機能を拡充してきた。現在は糸加工から糸染め、製織の機能を備え、売上高は40億円を超える規模になった。

 シモムラのM&Aは、商社として必要となる生産機能を確保する意味合いが強く見える。委託先が何らかの理由で事業の継続が難しくなり、生産機能を残すために人や設備を継承したケースも多い。

 最初の大きな案件は、2014年に倒産した鈴倉インダストリー(新潟県長岡市)の原工場の譲受だった。当時は北陸の撚糸キャパが縮小する中で、生産委託先を確保する必要があったのだという。元々は糸加工のために決めた案件だが、引き受けた工場には撚糸機だけでなくレピア織機もあったため、ここで織物も手掛ける形になった。

 17年にはピン仮撚り糸製造のフクイセイシ(福井県大野市)をM&Aで子会社とした。そして20年に先染めの園田産業(石川県能美市)の株式60%を取得し、グループ会社とした。先染め糸の見本帳展開で取り引きがあった企業だが、後継者不在の中で相談があり引き受けた。21年には倒産した北陸化繊の工場を継承し、仮撚り加工やカバーリングの押水工場(同宝達志水町)とした。

 22年にはアツギ東北の閉鎖にともない、むつ工場(青森県むつ市)を開設。もともと糸加工を委託していた先で、生産設備などを借りる形で生産を継続した。23年には廃業した津谷織物(福井県あわら市)の織機などを買い取り、その一部をソフィーナに移設した。

 24年にはスタイレムと糸加工の合弁会社、WS(宝達志水町)を設立。25年は帝人フロンティアから帝人フロンティアDG(新潟県見附市)を譲受して現在のDGとし、織布機能を拡充した。この時にむつ工場は閉鎖し、生産機能をDGに移管している。

〈シモムラ 西山 成幸 社長/次の世代に引き継ぐ〉

  ――昨年10月に帝人フロンティア(現TAフロンティア)から織布会社の帝人フロンティアDG(現DG)を譲受しました。

 新潟県にはソフィーナがありますが、これまではグループの中でここだけ離れたところにある難しさもありました。DGが加わったことで新しいやり方が可能となります。DGとソフィーナを合わせるとレピア織機は150台になり、糸加工の幅も広がります。

  ――両社の特徴を生かしていく。

 ソフィーナはレピア織機で幅広い品種を生産しています。糸は10Dや15Dから、1000D、1500Dまで扱い、資材や衣料など用途にはこだわらず生産していくスタイルです。

 一方でDGはユニフォームの比率が高く、引き受ける前は90%以上を占めていました。ユニフォームだけで埋めるのは難しいとみていましたが、帝人フロンティアのユニフォーム用途を引き続き生産しながら、当社として用途開拓を進めることでなんとかなると考えました。ソフィーナの生産能力で作りきれない部分をDGで生産するなどの取り組みが進んでいます。

  ――ソフィーナの時とは状況が異なる。

 ソフィーナの時は、撚糸の生産能力を確保するためでした。当時は北陸の外注先の高齢化が進み、あまり無理な依頼はできない状況でした。糸商としてはどこかで撚糸をやる必要があって、譲受を決めました。元々は糸作りのためでしたが、ふたを開ければ原工場には織機もあり、織物に展開が広がったというのが実情です。

  ――糸加工のスペース確保が狙いだった。

 最初は織物をやるつもりはなかったのですが、原工場には人がいて織機もあり、技術もありました。これがなくなってしまうより、残す方がいい。糸を販売していた顧客からも要望され、そこから織物のオーダーもいただけるようになりました。DGもなくなるより、譲受して継続した方がいいと思いました。

  ――糸加工のフクイセイシの時は。

 ピン仮撚り糸の生産を委託していましたが、ある時に事業を辞めると聞いて驚きました。商社としてはモノ作りがなくなるのは困ります。その時は赤字の会社だったのですが、残すべきと考えて引き受けました。

  ――グループとしてのシナジーは。

 まだ各社の潜在能力を生かしきれていないのですが、本業である原料を活用し、自分たちで思う糸を創り、糸だけでなく織物でも展開していくという形を目指しています。今はそれぞれで商売を作ってスペースを埋めるのが中心ですが、独自のモノ作り・提案をしていく理想の形に向けてグループの融合を図っています。ようやく昨年あたりから進みだしたと感じています。

 ソフィーナを譲受して12年が経ち、その分だけ自分も年を重ねました。今はつないでいくことを重視しています。次の世代に引き継ぐためにいろいろなことにトライしていますが、やはり分かりやすいシステム・組織作りが必要ですね。

  ――貴社のM&Aは、国内の生産場を残す意味合いが強く見える。

 IT関連など他の業種を見たこともありますが、やはり自分たちのベースがあってのことです。当社は創業してまだ二十数年で、しっかりと本業の足固めをする必要があります。モノ作りに基盤を置き、原料を仕入れて糸やテキスタイルにして、顧客に喜んでもらうことを最重視しています。