ごえんぼう

2026年11月02日 (月曜日)

 作家の太宰治は服装に苦労した。粋な着物でおでん店に入り、江戸っ子を気取れば東北出身と見抜かれる。ゴム長靴は奇妙だと言われた。原稿料で初めて買った久留米絣(かすり)の着物は大切にし、晴れ着のつもりで着ていた▼太宰は洋服に憧れながらも、高価で手が出ず、和服を着続けた。普通のつもりでも、人には変わり者に映る。服装は本人の気持ちだけでは決まらないらしい▼1940年の今日11月2日、男子の服装を規格化した「国民服令」が公布された。資源の節約や衣生活の合理化を目指し、普段着も礼装も兼ねる服を定めた。だが、同じ服を着ても、他人の目を気にせずに済むわけではない▼服装の自由が広がった今、「普通」や「ふさわしさ」という見えない物差しは残る。太宰は翌年の随筆『服装に就いて』をこう締めくくった。「宿題。国民服は、如何(いかが)。」――言論統制の時代、太宰は何を問い掛けようとしたのだろうか。