誕生物語~モノの裏に人あり(49)/イトチューウールリミテッド「レイクパピルス」(上)
2002年08月22日 (木曜日)
地球に良いことしたかった
00年3月6日、イトチューウールリミテッド(IWL)が毎週月曜日に開く早朝会議で、ある社員が昨晩見ていたテレビ番組の話を始めた。環境問題をテーマにしたテレビ朝日系のドキュメンタリー『素敵な宇宙船地球号』は琵琶湖に生える多年草、葦(ヨシ)を名刺の原材料として普及させようと努めるある広告企画制作・PR会社の社長の話を伝えていたという。
当時IWLは米袋古紙をペーパーヤーンにしてジーンズや旅行かばんなどの商品化にすでに成功していた。「ヨシもその線でいける」。田中成佳IWL日本支社長の頭に即座に浮かんだ。すぐさま電話をかけてその人に会いに行くと、第一声は『面白いやないか』。当時、大阪の天神橋筋商店街や道頓堀など地場振興を手掛けていたこのPR会社は、ヨシの利用を広げることで、ヨシ群落の『水郷めぐり』を観光名物とする滋賀・近江八幡の振興にもつながると期待した。相手にとっても思い掛けない吉報だった。
なぜヨシなのか。茎がすだれの原料として使われていたものの、その需要は日本人の生活様式の変化ですでに激減していた。ヨシそのものやその茎に生えた藻は、水中の窒素やリンを吸収して水質汚染を食い止める。しかし逆に刈り取らずにいつまでも放っておくとヘドロ化して水を汚す。ヨシを何とか使わねばならなかった。
ではなぜIWLが環境にこだわるのか。豪州羊毛の36年連続トップバイヤーであり、エコの時代といわれる21世紀で天然繊維の代表選手の一つ、ウールを主力商品にする。でもそれで十分とはしていなかった。田中支社長は「IWLとしてもっと間口を広げたかった」とこれまでヘンプ、リネン、ラミーなど環境に優しい素材に目を向けてきた事情を話す。ヨシの利用を通しても「地球に良いことをしたかった。もちろんビジネスとしても成り立たせながら」と思想のある商い、そしてその継続を目指していた。
その考えは01年11月に滋賀県大津市で開かれた「第9回世界湖沼会議」でまず実を結ぶ。ヨシを原料にしたトートバッグは会議のオフィシャルバッグに採用された。付けたタグには『このバッグ1個で琵琶湖の水が約2トン浄化されます』と説明が付いていた。
ただ、無料配布のバッグでは、商業ベースに乗せてビジネスとして継続させるという課題が置き去りだった。同時進行する形で、素材に使うと軽くてしゃり感があるヨシは寝具に合うのではとアイデアを暖めており、実用化するため京都西川、販売協力のため高島屋に声を掛けていた。元をたどればこの3社はいずれも滋賀県を発祥とする近江商人。故郷に恩返しする。同胞らの気持ちは寝具「レイクパピルス」の商品化に向けて一つになろうとしていた。