スパンデックス特集/「特化戦略」に活路求める

2002年11月27日 (水曜日)

 「90年代後半はまさに産めよ増やせよの増設ラッシュの荒波に見舞われた」(メーカー担当部長)スパンデックス。ようやく増設規模に需要が追いつき始め、瞬間的にはほぼ需給が見合うところまできたようだ。韓国や中国での汎用糸の増産で、規模的に見劣りがする日本メーカー各社は、こぞって特化戦略に活路を求めている。スパンデックス市場の“いま”とメーカー各社の戦略をまとめた。

需要伸長で市況回復/価格底入れも満足できず

 世界のスパンデックス生産能力は90年代に大幅に増え、現在約20万トン強に達したとみられる。今なお中国中心に増設の機運があり、さらに生産規模が拡大していくのは必至の情勢だ。しかし、ストレッチ商品が単なるトレンドから「標準装備」となる動きも一方ではあり、短期的には需給はバランスする可能性もある。

 スパンデックス需給を振り返ると、すさまじい増設が始まったのは90年代後半。化繊協会の推定によると、95年の世界の年産能力は9万トンに過ぎなかったが、それが00には20万トンを突破、さらに増設が進んでいるという。

 この増設の主力はアジア地域。中でも韓国、中国の増設ラッシュが激しく、そのことが価格の暴落を引き起こした。香港を中心とするアジア相場をみると、汎用糸44T(デシテックス)の価格は98年、99年当時には20ドルを上回っていたが、それが01年4~6月には10ドルを切り、一部韓国品は7ドル台の値段さえ表われるありさまだった。それがようやく今春あたりから底を入れ、10ドル台を回復し、タイト感が感じられる状況となった。しかし、この回復もメーカーにとっては満足できる水準ではない。

価格低下で需要拡大/アウター分野は「標準装備」

 この価格暴落も悪いことばかりではない。需要の裾野を広げるという“成果”をもたらしたのは事実だ。欧米先進国で作られていたスパンデックスは、その高価格のため、インナーやレッグウエアを中心とする一部用途にしか用いることしかできなかった。しかし、増設・増産による価格低下は用途を広げるという結果をもたらし、今や婦人アウター分野でも「標準装備」という言葉が生まれ、その市場の裾野を広げることとなった。

 ストレッチ素材はボトムスからトップスへ広がり、今や紳士服にも一部用いられるくらい市場は拡大した。同時に価格戦争から逃れるため、高機能商品の開発が進み、原糸そのものに特殊機能を付与したり、カバリングでの特化が進んでいる。その先頭を行くのがわが国メーカーだ。

 開発素材をみると、抗菌や消臭といった付加価値機能は当然のこととなり、今後の開発の方向性として「健康」「美容」「快適」などを切り口として素材の進化が進んでいる。さらにこの動きに拍車がかかる見通しだ。

 今後、スパンデックスは中国を中心にまだまだ増設・増産が続く見通し。そうした中で、わが国メーカーとしては特化戦略に活路を求めるしかない。メーカー各社の今後の取り組みを取材した。各社別にみていくことにする。

メーカー各社の戦略/東レ・デュポン/販促活動、さらに強化

 「ライクラ」で日本国内のブランドイメージ確立に全力を挙げてきた東レ・デュポンのマーケティング戦略は今年で3年目になる。その効果について「間違いなく出ている」と高主ライクラ事業部門長は強調、今後も継続してブランド力強化のための販促活動を拡充していく考えだ。

 現在好調な用途はインナー、パンツタイプのおむつなどの関連資材。しかしアウター用途は昨年までの伸びは見られないという。

 同社はこれまで消費者向けキャンペーンに力をいれてきた。今年は高島屋や小田急百貨店で「ライクラフェア」を開くなど、ブランドとロゴ認知度の向上に努めてきた。こうした効果からか、有力生地メーカーから引き合いが増えているという。

 今後は対塩素性、低熱セット性などのオリジナル商品を含むユニーク商品の開発を進める。またクオリティーもデュポン「ライクラ」グループ内でトップに位置し、コスト削減にも力を入れている。一段とブランド認知度を高め、素材ビジネスにおける新ビジネスモデルを確立、需要家への啓蒙と用途の開拓を強化していく。

メーカー各社の戦略/旭化成/海外拠点をフル活用

 「ロイカ」のブランドで展開している旭化成は、9月中間決算で、国内外の需要拡大により販売を伸ばし、増収増益を確保した。これにより同社は、一段の需要拡大をにらんで日本と台湾での生産に加え、中国でもロイカの生産を強化する。

 堀中亮司ロイカ事業部長は最近のスパンデックス市況について、「今年の春からタイト感が出てきた」とし、その理由として、値ごろ感が戻ってきたことと、ストレッチへの需要が川下段階から広がってきたことを挙げる。

 現在、国内年産7000トン、台湾台塑旭弾性繊維(略称FAS)同5000トンの合計1万2000トンの設備がフル稼働中。FASでは44T汎用糸のみを生産しており、台湾島内では約4割のシェアを占める。

 また、年産1300トンの計画で現在建設中の中国・杭州旭化成(HAS)が03年4月に立ち上がる予定。これにより隣接地にある95年に伊藤忠商事、ワコールと共同出資で設立した編み・染色の杭州旭化成紡織(HAT)への現地供給が始まる。

 HATは現在、年産450万メートルの規模でフル稼働中。05年までに生産能力を同1000万メートルに拡大する構想があり、現地での原糸調達によりテキスタイル開発を独自に進める体制ができる。すでに日系アパレルから中国内で生地調達を希望する要望が寄せられており、これに応える体制を目指す。

メーカー各社の戦略/東洋紡/汎用糸減らし特化へ

 1959年に国内初となる自社技術によるスパンデックスを開発した東洋紡は、乾式の「エスパ」(年産5500トン)と、溶融式の「エスパM」(同300トン)で商品展開している。今春から需給関係にややタイト感が生まれてきたことで、ほぼフル稼働中にある。

 輸出比率はこれまで中国、香港、台湾、米国向けを中心に60%前後だったが、このところで生産地の海外移転に伴い高まる傾向をみせている。スパンデックスの用途は従来の丸編み中心から経編み、織物と広がり、ストレスケア、快適素材として拡大しつつある。同社でも生活密着素材として見直し、アウター狙いの営業展開をみせる。

 今後の開発の方向として同社は、44Tを軸とする汎用糸の比率を現在の50%から徐々に低下させ限りなくゼロに近づける方針だ。具体的には、○1耐熱、耐光、耐洗濯、耐薬品などの機能の向上○2用途に応じたスペックの引き上げ――に取り組む。現在開発を進めており、順次市場に投入する計画だ。

 現在、40%を切る国内展開では、カバリング素材を工夫し、国内生産チームと共同ワークによる展開を模索、「メードインジャパン」商品を増やしたいとしている。

メーカー各社の戦略/日清紡/工場と営業一体運営

 日清紡の須賀田道明モビロン部長は現在のスパンデックス市場について、「供給が需要を常に上回っている状況だが、中国を主に需要は伸びている。それに従って価格は修正されてくる」と読む。

 現在同社は、溶融紡糸2000トン、乾式750トンの年産能力。平均デシテックスは各33T、40Tと細糸、差別化糸に特化している。例えば原着タイプのパンスト用やマイナスイオン放射などがそれで、さらに「美白」「健康」「暖かい」などを切り口に新たな商品開発と用途拡大を目指す。

 原着糸はリバーシブルウエア、パンストへの引き合いが好調とのこと。また機能付与による国内販売での差別化を図り、消臭、抗菌防臭、吸放湿タイプなどを展開中だ。

 販売の内訳は輸出が55~60%。香港・中国でうち8割がたを占める。国内向けの用途はレッグウエアが全体の約8割、残りがインナーやセーターなど。

 同社は01年6月から工場(徳島)と営業を一体的に運営する管理体制を敷いており、双方が商品開拓などで共同して取り組み、需要家に対してよりきめの細かい対応ができるよう仕組み作りに取り組んでいる。

メーカー各社の戦略/カネボウ合繊/溶融式の特性生かす

 1977年からスパンデックス生産を開始したカネボウ合繊は、溶融紡糸年産1000トンの能力を持つ。溶融紡糸の特性であるソフトストレッチ性を生かし、ベアヤーン「ルーベル」、ナイロンとの芯鞘構造コンジュゲート糸「シデリア」、ポリウレタンを不織布状にした「エスパンシオーネ」の三本柱で展開している。

 主力のルーベルは主力22Tと細番手でストッキング用途が多い。極度の締め付けを嫌う海外で、同方式の特徴であるソフトパワーのストッキングが好まれ、輸出が好調という。

 シデリアは19Tといったより細番手を中心に、春夏物向けの薄くてさらさらした風合いを特徴にストッキング用途への安定生産を続けている。この風合いが海外でも評価を高めているという。

 スパンデックスにおける現在の独自品比率は50%弱。「独自品比率を50以上に高めることを合い言葉にしている」(原田啓介ナイロングループ部長)が、特殊糸によるカバリングで差別化を志向する。遠赤外線、中空、吸湿、導電などの商品を市場に投入、様々なユーザーの要望に的確に応えていく。

 同時に上海華鐘ストッキング、上海華鐘ナイロン向けの輸出、同地でのカバリング糸の供給など中国での展開も強化する。

メーカー各社の戦略/富士紡/糸から二次製品まで

 昨年のスパンデックス市況の混乱後、「価格が下がって結果的に消費者の間にストレッチが浸透した。価格的にはまだまだ不満で油断はできないが、需給関係は徐々に締まってきた」と富士紡の平野亨スパンデックス営業部長は現在の市況についてコメントする。

 同社は乾式紡糸「フジボウスパンデックス」年産1500トンと、溶融紡糸の「ソフラ」同1000トンの合計2500トンの能力を持つ。

 商品は原糸練りこみ型の吸放湿素材「スパンフレッシュ」、抗菌防臭「エラフレスカ」、遠赤外線「インセラレッド」など原糸で5つ、後加工で2つの合計7シリーズ展開している。後加工を中心に富士紡が全社的に展開する大型商材にもスパンデックス営業部として参画する。

 また、原糸(カバリング糸含む)での供給のほか、丸編み、経編み、織物の各テキスタイル、さらにTシャツや布帛製品での供給にも力を入れており、「糸から二次製品までの対応」(平野部長)も順調に進んでいる。

 一方、01年に開設した香港事務所を今年2月に現地法人化し、香港・華南地区を中心とする中国向けビジネスが軌道に乗っており、さらに同地での展開を強化する考えだ。

メーカー各社の戦略/日東紡/シース素材を多様化

 東レ・デュポンの「ライクラ」を用いて独自のコアスパンヤーン「C・S・Y」を展開する日東紡は、(1)様々なシース(鞘)素材(2)染色仕上げ加工のバリエーション――を組み合わせ、用途にあわせて適度な収縮率を生み出すことで差別化を図る。 

 主要な例として、来年春夏からスタートするシースにマイクロモダールを使用した「MMO―C・S・Y」、タテ・ヨコ・ナナメに伸縮するストレッチ織物「フォーウェイ」、シームレス用ウエアの「コンフォートC・S・Y」などがある。

 輸出比率は約4割で、中・東南アジア経由、最終米国のSPA(製造小売業)向けが中心だ。

 今年になってアウター用途への需要が昨年度より減少していることについて、森本裕彦原糸素材事業部長は「様々な組み合わせを基に、来年は新しい商品構成で復活を期待している」とし、「トレンドとしてはビスコース系との複合が主流になる気配」との見方を示す。

 マイクロモダールの展開はそのトレンドに沿ったものだが、これは細番手を中心に展開する。太番・厚地対応ではリヨセルをシースに使った「C・S・Y」を打ち出す。現在試織中で来秋冬にはデビューさせる考えだ。