ダイワボウの特化原糸/シーズン別提案を本格化

2003年03月05日 (水曜日)

 ダイワボウの紡織工場部門、ダイワボウマテリアルズ(以下、マテリアルズ)。昨年9月に、ダイワボウの全額出資で設立され、同年11月から事業を開始した。リング糸紡績と織布設備を備える舞鶴工場(京都府舞鶴市)と、世界最大のオープン・エンド(OE)糸製造能力を誇る和歌山工場(和歌山県日高郡)を擁するマテリアルズは今、糸質のさらなる向上と並行して、生産糸種の多様化を進めている。糸種を多様化させ、シーズンに応じたきめ細かな素材提案を可能にする戦略だ。同時に、生産ロットの小口化への備えにも本格的に取り組んでいる。

事業を支えるコア技術

 マテリアルズは、以下の3つを紡績における“コア技術”と位置付ける。1つは、異種短繊維を混ぜ、それぞれの繊維の特徴を優性結合させた糸を作る混綿技術。2つ目は、ポリエステルを始めとする長繊維を短繊維で覆ったフィラメント・コアヤーンを作る技術。芯部の長繊維で吸水速乾性や形態安定性を確保することが可能だ。また、ポリエステル短繊維を、異種短繊維で覆った二層構造糸も、よりコットン・リッチな素材として提案していく。3つ目は、毛羽が非常に少なく、クリアで均整な純綿糸を作る技術。この技術を用いて商品化された糸、「ピュアコンパクト」は、市場に出回るコンパクト糸に勝るとも劣らない物性を備える。30~50単の番手での供給が可能だ。この他、糸にシャリ感やドライ感を与える強撚技術。ソフト感、ボリューム感を強調するための甘撚技術がある。

基本性能に季節性を加味

 これらの紡績技術と、独自の糸加工技術や特殊繊維を組み合わせ、年間を通じて求められる性能を確保すると共に、季節に応じた特性を加味する。独自の糸加工技術とは、たとえば鉱石に含まれるミネラル成分を綿糸に含有させ、マイナスイオンを発生する技術(商品名は「カルサー」)。生地への加工でそれを付与した商品は少なくないが、綿糸では珍しい。特殊繊維としてはたとえば、ダイワボウが生産している「デオメタフィ」がある。強力な消臭性能を持つフタロシアニン化合物を含浸させた繊維だ。この繊維はフタロシアニンの作用で青色に染まっている。マテリアルズはこれまで着色繊維の紡績を避けてきたが、舞鶴工場が今、それを紡績するための体制整備を進めている。

さらに、マテリアルズの開発素材を生かしてダイワボウは、季節に応じた糸をきめ細かく提案する。具体的には、春夏はレーヨン、麻混などの涼感素材を、秋冬はアクリル、ウール混などの保温素材を提案していく。Tシャツやインナーをはじめ、ドレスシャツ、コート、ボトム、ふとん側地などそれぞれの用途が要求する基本物性を踏まえながら、シーズン別提案マップを組み立てた。春には「爽快・クリア」、夏には「吸水速乾・肌離れ」、秋には「爽やかさ・ソフト感」、冬には「肌で感じる暖かさ」をキー・ワードにした糸を前面に打ち出す方針だ。

リングとOEの両刀使い/マテリアルズの武器

 世界で最初にオープン・エンド(OE)精紡機を実用化した紡績会社は、ダイワボウだ。同社のOE紡機を結集させたマテリアルズ和歌山工場のOE糸生産能力は現在でも、世界最大だ。リング精紡機と(OE)精紡機は、同じ精紡機ながら原理が全く違い、作り出される糸の特性も異なる。ところが、OE精紡機を備える工場は日本には少ない。マテリアルズは、OE精紡機とリング精紡機の両方を備えていることを、武器として前面に打ち出そうとしている。

 別表の和歌山工場と舞鶴工場の比較を見て欲しい。コアヤーンなどの二層構造糸をはじめ、精紡交撚糸や極細番手糸、さらには「ピュアコンパクト」などは、舞鶴工場が生産を担う。

 一方、精紡の前工程でくし削られる繊維長の短い“未利用綿”だけで糸を作るには、OE機の方が有利だ。リング精紡機では、未利用綿混糸は作れても、100%糸を作ることは難しい。同社は、OE紡機で未利用綿100%の糸を作り、「ジンモ」商標で販売している。この「ジンモ」は、普通の綿で作った糸にはない独特な感触を備える。また、麻100%糸や、ケナフ高率混糸を作るにも、OE精紡機の方が有利だ。

 和歌山工場には、「オートコロ」と「BD200」という2種のOE精紡機がある。独特なシャリ感に人気があり、ダイワボウがTシャツなどのOEM生産に活用している「テキサス7」は、前者の「オートコロ」機で作ったものだ。後者の「BD200」機にも、「オートコロ」機よりも風合いが柔らかい糸を作れるなどの長所がある。マテリアズは、この「BD200」機の欠点とされた節(スラブ)やカスの混入を解消するための設備改良を行い、この設備を保有していることも同社の武器にしようとしている。

この人に聞く/ダイワボウマテリアルズ社長・鳥居進一氏

<自分達の工場を自分達で>

 コストで中国の工場に勝つことはできない。コスト削減に挑戦し続けるが、それ以上に(1)他に負けない品質の確立(2)他よりもすばやい対応力の構築(3)他にはない商品の開発―の3点に力を注ぐ。そのためには、自分達の工場を自分達で作るという社員個々の気持ちが大切だ。我々が入社した頃は、自分達の考えがどんどん取り入れられ、自分達の工場が作られていった。その頃の雰囲気を取り戻したい。4月からスタートする新3カ年経営計画には、これまでになかった規模で、品質向上や、多品種少ロット生産体制強化のための投資予算が組み込まれる。大きな方向や腹案は示すが、具体的な設備投資の方向については、将来の夢を自分達で描き、今何をどうすべきかを自分達で考えて決めるように指示している。

商品ファイル

「ピュアコンパクト」

「ピュアコンパクト」は、毛羽、ネップ、微細欠点が少なく、かつ強い純綿リング紡績糸。舞鶴工場が、既存のリング精紡機に独自考案の特殊装置を取り付けて商品化した。同社が公表している巻き糸(ワインディング)後の物性測定結果では、毛羽数、ネップ数、微細欠点数、強力のすべての項目で、「ピュアコンパクト」の方が、通常リング糸はもちろん、コンパクト糸よりも優れている。

「エアコット」

 「エアコット」は、中空ポリエステルを使った吸水、速乾性に優れたハイパー原糸だ。汗を繊維と繊維のすき間や、繊維自身の中へ素早く吸収し、拡散。優れた速乾性を発揮する。適度なハリ、コシとともに、ドライタッチな風合い。スポーツウエアをはじめ、幅広い用途に生かされている。

「カルサー」

 天然繊維は一定の水分を含んでいるが、それをマイナスイオン発生性を備えた鉱石を含む水に置き換えたのが「カルサー」だ。下着を始め、ボトム、パジャマ、ポロシャツ、シーツなど様々な用途で採用されている。