植物原料繊維特集/進化と新種で市場開拓へ/ポリ乳酸繊維編

2003年07月10日 (木曜日)

 植物を原料とする繊維への関心が高まっている。関心の高まりを受けて、既存繊維の改良、改質や、新種の植物繊維の開発が加速しはじめた。多様な植物原料繊維の可能性を追った。

持続可能な発展目指す

 トウモロコシから生まれたポリ乳酸(PLA)繊維事業が、市場拡大の機会を迎えた。PLA樹脂メーカーである米国カーギル・ダウ社の供給能力の拡大とグローバル戦略に絡み、PLA繊維の新規参入が世界的に促進される。これを機会に、PLA繊維の認知度の向上と需要の創造が期待されている。

 PLAは、植物由来の生分解樹脂であり、環境面から注目されている。

 PLAの原料は、トウモロコシなどでんぷんを含む植物である。光合成によって植物に蓄えられたでんぷんを酵素分解して糖質とし、乳酸菌発酵により乳酸を作る。この乳酸を触媒により化学的に重合し、PLAを得る。PLAは脂肪族ポリエステル樹脂であり、熱可塑性プラスチックである。そのため、溶融押し出しにより、繊維やフィルム、その他の整形品になる。繊維にする場合は、既存のナイロンやポリエステルの溶融紡糸設備を部分的に改造するだけで対応できる。

 PLAは、再生可能な植物由来であり、限りある石油資源と対比される。使用後は、加水分解や微生物分解により水と炭酸ガスに戻る。その水と炭酸ガスは、光合成により、でんぷんとして再び植物に蓄えられる。つまり、持続可能な循環システムがここに形成される。当初注目されていた「生分解性」だけでなく、さらに進んでこの「持続可能な発展性」が、PLA繊維の大きな特質として捉え直されている。

 PLA樹脂メーカーである米国のカーギル・ダウ社は、トウモロコシを原料としてPLAを合成し、合繊メーカーやプラスチックメーカーに「ネイチャー・ワークス」ブランドで供給している。年産能力4000トンのテスト工場を経て、14万トンの商業PLA工場を01年、ネブラスカ州ブレアに完成。02年4月に生産を始めた。今年一杯掛けて50%操業に高め、来年フル操業に入る予定だ。さらに、10年には、45万トンへの年産能力拡大を計画している。

認知度高め市場創造

 カーギル・ダウ社は、「テンセル」のマーケティングで名をはせたティム・アイノン氏を繊維部長に起用。同社PLAによる繊維の共通ブランドに「インジィオ」を採用し、PLA繊維の世界的統一のマーケティング戦略を今年1月に打ち出した。カーギル・ダウ社自身はあくまで樹脂の供給者であり、合繊や糸加工、織編物、不織布、カーペット、アパレル、染料などのメーカーや流通関係者、商社を含む「インジィオ・パートナー」を組織している。

 「インジィオ・パートナー」とは別にカーギル・ダウ社は、合繊メーカーと、PLA繊維の製造・販売や「インジィオ」ブランドの使用などに関する包括的な契約締結を進めている。3月20日に台湾の遠東紡織、4月28日に日本の東レと包括契約をそれぞれ結んだ。

 アイノン部長によれば、包括契約の締結社数は、今年中に12社になる予定だ。この中には、日本のカネボウ合繊、ユニチカ、クラレも含まれている。これら3社は、カーギル・ダウ社と90年代の終わりから包括契約を結び、PLA繊維やその他の製品の開発・販売に携わってきた。「インジィオ」ブランドに関する契約が、従来の包括契約に加えられることになる。原料配分の面などでは、パイオニアとして引き続き優先されると言う。包括契約を結ぶのは原糸メーカーに限られ最大でも20社程度で完了する見通しだ。2次製品など川下企業に関してはインジィオファイバー複合率50%以上(原則)や用途制限などをクリアすればブランド使用が可能だ。今年1月時点で原糸メーカーを含む87社がブランド使用の意志表示を行い、6月時点ではそれが約120社に拡大しているという。

PLA繊維事業を強化

 カネボウ合繊は5月27日、PLA製品「ラクトロン」事業を本格化するため、従来の「ラクトロン事業化推進室」を「ラクトロン営業部」へ一挙に格上げし、人員面でも拡充した。

 カネボウ合繊は、繊維を主体にしてPLA事業を構築している。その特性を単なる「生分解性」にとどまらず、「持続的な発展可能性」と「独自機能による消費者への貢献」から捉え直している。カネボウ合繊は、「ラクトロン」の普及を図るとともに消費者の反応を直接把握するため、「ラクトロン」の二次製品を「カネボウ環境倶楽部」のブランドで、カタログ販売やインターネット販売でも展開している。

 ユニチカは、フィルムをはじめとして樹脂やシート、不織布、繊維など多様な分野でPLA製品「テラマック」を展開している。02年度の「テラマック」の売上高は約10億円。今年度はその2倍以上を見込み、05年度には100億円に拡大する。相対的に立ち遅れていた繊維の強化が課題となっている。

 クラレは、石油由来のビニロンや「エクセバール」(溶融紡糸が可能な新規水溶性ポリマー)とPLA繊維「プラスターチ」との複合により、ニッチ分野を攻める。PLAとビニロンとの分解速度の違いを利用した植生マットや、「エクセバール」溶解によるPLAマイクロファイバーなどに、クラレは特徴を出している。同社は、05年度で1000トン(10億円)の売上目標を持つ。

 東レは、環境関連分野でPLA繊維事業を戦略的に拡大する。「インジィオ」に加えて、東レ独自の「エコディア」をサブブランドとして使用。当初は自動車用など産業・生活資材用の繊維製品での開発・販売を目指し、順次、衣料・インテリアなど幅広い用途へ拡大する。05年度には年間販売数量4000トン、売上高100億円規模を目指す。

ちゃんと消せる?大豆色/大豆繊維

 中国企業が大豆かすを原料にして開発に成功した大豆繊維。ただ、生機を漂白しても大豆の乳黄白色が完全に消え去ってくれないのが商品化に取り組む企業の頭を悩ませている。

 日本では紡績や商社が、わたや糸を輸入して生地、商品の開発を徐々に進めている。ただ、複数の関係者によると、大豆繊維は・糸の毛羽が多い・漂白しても色が残る・元来たんぱく質であるため熱に弱い――などの問題がある。

 ・は撚りをかけたり、紡績工程に手を加える、またはコンパクト糸用紡機を使用するなどの手法により解決の糸口がほぼつかめている。・の特性は、天然繊維などではとくに問題はないが、高温染色が必要なポリエステルなどとの複合を難しくしてしまう。

 最も困難な課題となっているのが・の問題。大豆繊維はシルクのような光沢感とカシミヤのような柔らかさをあわせ持つ。しかし、せっかくの長所も、・のために例えば肌着の素材として使う場合、真っ白な肌着が作れないことになる。現在、紡績1社が100%糸や各種混紡糸を開発し、ニット、布帛の両方でアウター向けにアパレルとこの素材をどう生かすかを詰めている。複数の大手商社も紡績、産地などと組んで開発に乗り出しているが、・~・の課題すべてをクリアするにはまだ至っていない。

 供給は世界有数の大豆生産国、中国であるだけに、商品化に成功すれば、中国現地企業も設備を一気に増やす可能性もある。大豆繊維は将来を嘱望される“未完の大器”と言えそうだ。