植物原料繊維特集/樹木繊維編/国内2社体制に

2003年07月10日 (木曜日)

レーヨン

 レーヨンは木材から精製したパルプを原料とする再生繊維。土中で生分解することから、環境に優しい素材であり、発色性の良さやドレープ性、高い吸水性などの特徴を持つ。

 まず、その製法から。パルプを苛性ソーダに浸漬してアルカリセルロースを生成する。これを粉砕、老成させた後に化学反応させてザンテートとし、それをアルカリ液に溶解してビスコースにする。そのビスコースをノズルから凝固液の中に押し出して繊維とするというものだ。

 かつては、多くの素材メーカーが生産していたが、製造工程で用いられる二硫化炭素などの回収費用などがコスト高になることなどからほとんどが生産を止めた。90年以降でいえば8社(フィラメント3社・ステープル5社)が撤退。現在では、オーミケンシとダイワボウレーヨンの2社だけが生産する形になっている。2社体制になり供給責任が高まったことから両社ともに品質の向上や安定供給という面に力を注いでいる。また、新たな用途開発を狙い、機能付与や従来レーヨンの弱点を克服した特殊レーヨンの開発を進めている。

再生セルロースの新展開

 レーヨン以外の再生セルロース繊維として代表的なのは、オーストリアのレンチング社が生産する「モダール」「レンチング・リヨセル」と、英国アコーディス社の

「テンセル」の3つだ。

 「リヨセル」と「テンセル」は同じ精製セルロース繊維。この2つは通常のレーヨンに比べて、強度がポリエステル並みとされるほど高い。湿ったときに弱くなるレーヨンと違い、濡れてもほとんど弱くならないという特徴もある。ちなみに素材感という面では、「リヨセル」、「テンセル」とも光沢とムラの少なさ、しなやかな触感とハリ、コシ、弾力性などの特性を持つ。

 一方の「モダール」は、ハイウェットモジュラス(HWM)レーヨンと呼ばれる改質レーヨン。ウェットモジュラスとは濡れた状態で繊維を5%伸ばすのに必要な力のことで、HWMとは繊維を伸ばすのに5%より更に強い力が必要という意味。すなわちHWMは外から加わる力に対して強いということを指す。ちなみに、洗った時の毛羽立ちが少ない。

 日本への輸入販売は、「モダール」と「リヨセル」の輸入窓口をモリリンとニチメンが務める。「テンセル」は、アコーディス・ジャパンが一手に担い、販促活動も含めて日本市場での販売展開を管理している。

 「モダール」、「リヨセル」は、これらの素材を使用する関係者らが一様に「セルロース系に追い風が吹いている」と指摘するように、市場での評価が高く、供給が追い付かない状態だ。供給元のレンチング社は、「リヨセル」ついては現在の年産能力2万トンを年内に4万トン、中期的には6万トンまで拡大する計画。

 他方、「テンセル」は、日本ではテンセル会を構成する商社や染色加工業者などが複合素材の開発や用途の拡大などの役割を担い、市場を広げている。

まだまだある編/環境への優しさの魅力

ヘンプ、カポック、ケナフ、バンブー、そして月桃やバナナの茎。日本の素材メーカーは、様々な植物を糸にしてきた。それぞれに、独特な風合いを備えている。もちろん、「環境にやさしい」素材でもある。

月桃やバナナの茎は、使われずに産業廃棄物になる運命だったもの。素材メーカーの技術が、それに命を吹き込んだ。ヘンプ、カポック、ケナフ、バンブーは、農薬や化学肥料をほとんど施されることなく育った。この素性を損なわないように、染色加工といった生産工程では天然系の薬剤を用いるなど、環境を意識した取り組みを進める企業も多い。

 ヘンプ(大麻)はナチュラルな風合いやそれが持つイメージなどから、堅調な人気がある素材。多孔素材であるため吸湿性にも優れている。また、農薬や化学肥料をほとんど用いずに育成できる環境に優しい素材でもある。

 カポックは東南アジア熱帯地方に分布する落葉高木。こちらも農薬や化学肥料をほとんど使わずに育つ。その繊維は天然の中空部分が大きいことから軽量感が得られる。

 ケナフはアオイ科ハイビスカス属の一年草。成長が速く、光合成による二酸化炭素の吸収能力が高いといった特徴もある。素材にした場合は自然で独特の風合いが得られるほか、多孔質のため吸湿性にも優れる。

 日本の生活と関わりの深いバンブー(竹)も素材化された。竹そのものを繊維化したもののほか、レーヨンに練りこんだタイプなどもある。竹自身にゆるやかな抗菌性があることや、独特の風合い・イメージが広く受け入れている。

 これらの素材の購買層は環境への意識が強い人たちが中心で、まだ大きなマーケットになっていない。しかし、着実に広がっているのも事実。今後の開発に積極的な姿勢を示す素材メーカーは多い。植物原料繊維の種類は、今後も増え続けそうだ。

キュプラの原料って?

 コットンリンターと呼ばれる綿花の種子の周りのうぶ毛を原料とする繊維がある。旭化成が生産するキュプラ繊維「キュプラベンベルグ」がそれだ。コットンリンターは本来、使用されずに棄てられていたもので、そのまま放置しても、自然に分解する。しかも、綿花は一年草で、毎年生産が繰り返されるため、採り過ぎてなくなることもない。“究極のエコロジー繊維”との位置付けも可能だ。