液アン生地で中国が追撃/寧波日中も設備導入へ

2003年09月22日 (月曜日)

 綿生地を液体アンモニア(以下では液アン)で処理するための設備は、現時点で世界に17台設置されているとみられる。そのうちの半分以上、9台が日本にある。日本は世界最大の処理能力と、世界最高水準の処理技術を背景に、液アン生地の市場開拓をリードしてきた。ところがここにきて、中国企業の追い上げが目立ち始めている。

先行するルータイは増設

 先染め織物製造の世界最大手とされる中国の魯泰(ルータイ)紡織は、01年12月に液アン処理設備を1台導入。昨年前半から、同設備で形態安定性を付与した先染め織物を生産し始めた。

 日本のある紡績会社によると、ルータイの液アン先染めシャツ地は、日本産よりも1メートル当たり100円以上も安かった。このため、価格志向型の顧客の多くを同社に奪われたと言う。

 この時点までの競合は、先染めシャツ地に限った話だった。ところが、商社筋によるとルータイは、昨年末に連続染色設備も導入、今春から稼働させている。月間処理能力は大きくはなく、60万メートル程度だとされるが、この能力を得たことで液アン処理した無地・晒し生地を生産することも可能になった。日本の紡績会社が牙城(がじょう)だと思っていた無地・晒しの分野でも、中国との競合が発生する可能性が出てきたわけだ。

 更にルータイは、今年8月に液アン処理設備を1台増設、2台体制にしたとされる。これで月間処理能力が200万メートルに増えたとみられる。「ルータイの液アン先染め織物は、その品質で売り込むことが可能な日本市場を既に押さえ切っているため、増設によって日本市場への投入量が更に増えるとは考えにくい」(紡績会社)との声もある。しかし、日本の液アン生地製造業者にとっての新たな不安材料であることは間違いないだろう。

 加えて、ヤンガー・グループと日清紡、伊藤忠との合弁で設立され、来月からの本格稼働を予定している寧波日中紡織印染も、液アン処理設備を1台導入することを決めた。同合弁会社は、糸染めから、織布、加工までの設備を備える。これらに液アン処理設備を加えるのは、来年後半になりそうだと関係者はいう。

 ルータイの増設、そして寧波日中の新規導入計画は、液アン生地の分野においても中国の追撃が本格化し始めたことを意味する。日本企業がこれまでの地位を保持し続けるには、液アン設備の応用技術に更に磨きをかけることが必要だ。

 液アン処理設備を5台保有する世界最大手の日清紡は今年4月、伊藤忠商事および香港のTAL社との共同で、綿100%のノーアイロン・シャツ「ノンケア」を開発したと発表した。このシャツには、3・5級以上のW&W(ウォッシュ&ウエア)性を備えた純綿生地が使用されている。W&W性を強調した従来の純綿生地のそれは、3・2級だった。液アン処理設備を活用するだけでは、この水準を超えることは難しい。紡織処方から樹脂加工処方までのすべてを見直すことで、壁を越えたという。中国企業の追撃は、日本企業のこの種の方向での商品開発を促すことになるだろう。

解説/様々な後加工を可能に・液体アン処理の効果

 液体アンモニアの表面張力や粘度は、水より低い。だから、それに浸された綿繊維は、瞬時に膨潤し、円形になって、ねじれが取れる。その結果、(1)縮みにくく(2)しわになりにくく(3)反発性が増し(4)やわらかくなり(5)強くなる。この処理を施しておくと、綿には不可能とされていた様々な後加工が可能になる。代表的例が、W&W性の付与。W&W性を付与するには普通、樹脂加工を行う。ところが樹脂加工には、綿繊維を弱く、かつ硬くしてしまう欠点がある。しかし、樹脂加工の前に、液アン処理で綿の強力を高め、かつ柔らかくしておけば、その欠点を相殺できる。綿100%製の“形態安定”加工生地の多くは、このような技法で作られている。