スパンデックス需給失調を乗り切れ~差別化と高品質を武器に
2003年11月14日 (金曜日)
ポリエステル長繊維となるか、それとも独自の道を歩めるか。国産スパンデックス(ポリウレタン弾性繊維)業界は99、00年の増設ラッシュによる「第一次スパンデックス戦争」以来の岐路に立たされている。年末から年始にかけて稼働する中国での大増設。それに伴う需給失調が懸念されるからだ。その中で「同じ轍は踏まない」と各社は強調、ある程度自信を示すが、日本企業が進める差別化戦略や高品質という強みは通用するのかどうか。結果は年明け以降にハッキリする。
第一次と同じ轍は踏まない
化繊協会の「海外速報」によると、中国内のスパンデックス年産能力は89年の300トンから現在では7万2000トンに拡大、03年中に9万トン、04年には12万トン規模の増設が予想されると言う。
これに対し、中国内の需要は01年で約3万7000トン、02年で5万7000トン、03年は6万5000~7万トン。着実に需要は増えているものの、供給能力の拡大スピードが早く、需給失調に陥る可能性が高い。
スパンデックスの代名詞「ライクラ」を生産販売するオペロンテックスの高主秀一常務は「確かに中国の需要は広がっているが、今回の大増設では間違いなく供給過剰になる。当然、糸輸出は影響を受ける」と語る一方、ポリエステル長繊維との違いも強調する。
スパンデックスは各社ごとの違いもあって、糸を変更した場合のリスクが大きいからだ。「織物でわずか2~3%混程度のスパンデックスが変わることで製品が駄目になる。高次加工含め高いノウハウを必要とされるのがストレッチ素材」と自信を見せる。
自信を示すのは同社だけではない。旭化成せんいの堀中亮司取締役兼専務執行役員ロイカ事業部長は「当社は適正規模で生産販売しており、影響は少ない」と語る。国産スパンデックスメーカーでは唯一、中国生産も行う同社は来春、中国の杭州旭化成 を倍増設の年産2500トンに拡大する。
生産品種は中国で大増設が行われる44T、310Tで影響を受けるはずなのだが「1クラス上で勝負している」と品質面での優位性を強調。99、00年のような「第一次スパンデックス戦争に当社は陥らない」と見る。
高品質での強みを強調する2社に対し、差別化戦略で需給失調を乗り切る姿勢なのが東洋紡、富士紡、日清紡だ。東洋紡では耐熱タイプの「T71」などの差別化糸が6割を占めており、レギュラー糸とは一線を画す意向。富士紡はコアヤーンなど加工糸展開で差別化、日清紡は溶融紡糸の特徴を生かした練り込みで違いを打ち出す。
こうした差別化戦略や高品質で、需給失調を乗り切れるかどうかはまだ読めない。ただ、各社とも一定の自信を示しており、その面では「第2次スパンデックス戦争」は全面戦争ではなく比較的、影響は少なくて済むのかもしれない。楽観はできないものの…。
アウターウエアで定番に/すその広がるストレッチ
アウター衣料で、スパンデックスを使用したストレッチ織・編み物のすそ野が広がっている。チノパン、ジーンズなどカジュアルだけでなく、あらゆるシーンでストレッチ素材が使われており、定番化しつつある。
当然、スパンデックスメーカーの販売量も増えている。今上期、オペロンテックス「ライクラ」のアウター向け販売量は前年に比べ30%増を記録した。すそ野の広がりに加え、日本回帰への動きがあるのではないかと同社の高主常務は指摘する。
SARSや品質面から大手SPA(製造小売り)が中国一辺倒から見直し気運にあるからだ。もちろん、価格は厳しいものの、国産スパンデックスメーカーへの引き合いは強いと言う。
旭化成せんいの「ロイカ」もアウター向けは拡大基調。「トップス、ボトムスともまだまだ拡大するし、国産の高品質が認知されており、生地輸出も増える」と堀中取締役は強気だ。
とくに、長繊維織物でのストレッチは日本がリードするとも。加工糸による差違が大きくでるからだ。
加工糸という面ではコアスパンヤーン「CSY」を擁する日東紡でも「ストレッチ素材のすそ野は全世界で広がっている」(森本裕彦執行役員繊維事業副部門兆兼原糸素材事業部長)とみる。
ただし、「CSY」も汎用品では価格が厳しいようで、前年に比べ5%程度は値を下げており、競合は激しそう。
しかも、品質面で劣ると言われる中国でも、先ごろ開催されたインターテキスタイル上海展では「取るに足らずの状態から間違いなく水準は上がっている。厚地だけでなく、薄地でも染色技術が高まっている」と警戒感を示す。
その面ではすそ野は広がっているものの、日本スパンデックスメーカーとしては常に素材開発、新たな企画提案をしていかないと、高品質だけでは大きな波に飲まれる可能性も秘める。
隠れた大型用途 紙おむつ/特許無効で「ロイカ」参入
スパンデックスの隠れた大型用途である紙おむつ。最大手のオペロンテックス「ライクラ」、湿式紡糸の富士紡に続き、ついに旭化成せんいも「ロイカ」で本腰を入れ始めた。紙おむつ用のスパンデックスはオペロンテックスが特許を有していたが、それが無効となったため、旭化成せんいが乗り出したとも言える。
紙おむつ用スパンデックスの国内需要量は2000トン強(業界推定)だが、今後中国、東南アジアでの需要拡大も見込まれている。
旭化成せんいでも輸出を中心に引き合いが活発なようで、早期に年間1000トンにまで引き上げたい意向。もともとスパンボンド不織布で紙おむつ用途に展開していた同社だけに、販売ルートは確保されており、今後の動向が注目される。国内のロイカ工場(滋賀県守山市)からはソフトパワーの「ロイカHS」、中国、タイ子会社からはレギュラーポリマー糸で供給する。
迎え撃つ形のオペロンテックスは糸種も豊富で、要求される小ロットでの物流対応のため、ストック拠点も設けており、先発の強みを生かして対応。富士紡は総販売量の10%が紙おむつなど資材用だが「これを20%にまで引き上げる」(平野亨スパンデックス営業部長)など販売増に意欲を見せる。
いずれにせよ、紙おむつを巡る戦いは激しくなりそうだが、高速生産される紙おむつで糸切れなど許されない。その面では品質が勝負を分ける。日本企業ならまだしも、この分野に44Tのレギュラー糸中心の中国企業や韓国企業が入り込む余地はなさそうだ。
パンスト4000万デカ割れも/細Tや機能糸で生き残る
スパンデックスの主力市場であるパンティーストッキング(PS)需要は激減している。かつて1億2000万デカと言われたPS国内生産量だが、03年は4000万デカ割れが予想されるほどで、実に3分の1にまで市場規模は縮小する見通しだ。しかも「未だ歯止めが掛からない状態」(日清紡・須賀田道明モビロン部長)にある。自ずとスパンデックスの投入量も減少している。
カバリング糸100%によるゾッキPS登場で、スパンデックス使用量は増えたが、その後、国内生産の落ち込みはすさまじい。
PS需要の落ち込みはパンツスタイルの定着、オフィスユニフォームの廃止など様々な要因がある。PSメーカーなども様々な需要振興策を講じているが、歯止めは掛からない状態だ。
さらに、これまで実用衣料品の一つでありながら、輸入との競合が少なかったが、難しかった高速でのカバリング機が中国製でも登場している。その面では中国製PSの品質水準が上がる可能性も秘め、輸入製品の増加も懸念される。
こうした中、PSメーカーでは1足500円ゾーンでの商品開発に力を入れている。スパンデックスメーカーでも「今後は実用衣料ではなく、ファッション衣料やメディカルというかコスメティックなPSにシフトする」(旭化成せんい堀中取締役)と予測する。例えば疲れないPSなどはその一つだろう。
こうしたPSの開発に応じた機能性を持つスパンデックスや従来の22T中心から10Tなどさらなる細デシテックス化への対応は国産メーカーが得意とするとこ
ろ。恐らくPSへの投入量はまだ減少するかもしれないが、国産スパンデックスメーカーが何とか踏ん張れる余地はまだありそうだ。
その他、スパンデックスの主力用途ではインナーは安定している。例えばインナー用ラッセルなど編みレースは柄だけでなく、洗濯後の収縮率など厳しい品質が求められるため、糸の品質はもちろん、熱セットなど加工ノウハウなどが重要になる。
その面では日本のスパンデックス糸やレースメーカーは一日の長があり、中国生産されるレースでも日系企業製が高く評価される。もちろん、中国から欧米輸出される商品も同様で、そこへの糸輸出を含めスパンデックスメーカーもインナーについては安定用途に位置づける。
水着もスパンデックスにとっては大型用途のひとつなのだが、冷夏もあって今夏商戦が不振であっただけに先行き見通しは厳しそうだ。




