座談会:JCの今後の課題は何か「繊維製造業 復権に向けて―その条件を探る」
2003年12月02日 (火曜日)
産業構造審議会・繊維産業分科会による「日本の繊維産業が進むべき方向ととるべき政策」と題する新繊維ビジョンが7月にまとまった。副題に「内在する弱点の克服と強い基幹産業への復権を目指して」と示すように、新繊維ビジョンは、とくに中小製造事業者に対しての方向性と支援体制を明確に示した。その具体化としての中小繊維製造事業者自立事業(自立化事業)など、川中の復権を勇気づける施策だ。同ビジョン策定に取り組んだ繊維産業分科会・基本政策小委員会の委員だった貝原良治氏(カイハラ会長)、山下雅生氏(ニット工連会長兼JC輸出振興委員会委員長)と、伊藤忠商事の小寺明常務執行役員にお集まりいただき、「繊維製造業 復権に向けて―その条件を探る」をテーマに座談会を開いた。
座談会出席者
伊藤忠商事常務執行役員・小寺 明氏
カイハラ会長・貝原 良治氏
日本ニット工業組合連合会理事長兼JC輸出振興委員会委員長・山下 雅生氏
新繊維ビジョンの評価は/中小企業が生き返った
――新繊維ビジョンについての評価・感想はいかがですか。
山下 基本政策小委員会での討議の過程で、2つの問題点が浮かび上がりました。川中の自立化と輸出振興です。自立化は突然出てきたテーマではありません。産地はこの10年で3分の1の規模となる疲弊状態にあり、空洞化が進んでいました。これをどうするかという問題に光をあて、自立化事業という画期的な施策を講じていただいたのが、経済産業省の山本健介繊維課長です。03年度の中小繊維製造事業者自立事業では、575件の申請があり、110件が採択されました。私もニット工連の理事長として全国20産地を回りました。その中で、この事業に対し「よしやろう。最後の施策だ」と、多くの組合員の賛同が得られました。中小企業が生き返った感があります。
貝原 私も小委員会に加わっていましたが、「自分達で動かなければ、何もできない」と改めて思いました。自助努力がまず第一です。それに対し経済産業省は予算を確保し、前向きな企業をバックアップしてくれています。
自立化事業では今年度110件が採択されましたが、この第1陣にぜひ成功してほしいと願っています。成功しなければ、後に続く者が出てきません。来年度の応募は今年以上に増えるでしょうが、補助金がもらえる的な応募は避けてほしい。本当に生き残りを考える企業にこそ、道を開くべきです。今回の自立化事業の旗振りを行っていただいた山本課長には感謝の念で一杯です。
――商社の立場から見て、今回のビジョンはいかがですか。
小寺 今回の繊維ビジョンは、川中対策に多くを費やしています。私自身が会社で川中をとくに統括していることもありますが、繊維カンパニーの中でも川中は最も人が多く、経営資源をさいている部門です。当社に限らず、繊維の中でも、川中は産業の根幹をなしているといえます。ビジョンでも繊維製造業の雇用者数は約68万人で、製造業全体の7%、今もって一大産業であると指摘していました。ビジョンが今後の繊維産業の指針となったことは間違いありません。当社としても参考にしています。
よく90年代を失われた10年といいます。確かにこの10年で産地の転廃業が進みました。産地は大変な苦労を重ねてきましたが、今、生き残っている企業もある。そうした企業にとって、この10年というのは決して無駄な10年ではなく、貴重な10年であったと思える日が来るかもしれません。
――変革の時期であったと。
小寺 これまで産地は、メーカーに言われた通りのことをしていれば良かった。しかし、輸入品の増加で仕事量は減り、加工単価も下がった。従来のままではやっていけないということが明確になりました。モノ作りの思想の部分が覆され、消費者の視点に立って、自ら企画する。賃加工ではなく、新しい販売に挑戦する。貴重な10年の延長線上として、そうしたことが求められる今を迎えた。来年は反転の年となるようがんばりたいですね。
日本素材は自信を持って日本らしさを打ち出そう
――自立化事業が産地の各メーカーに与えたインパクトは大きかったようです。
山下 すさまじい衝撃ですよ。自立化事業で、時代が大きく変わったという印象を受けました。自立化事業には、作れば売れた量産時代の負の遺産を排除しなさいよという主張がある。それと、数量より利益の重視、消費者の視点を大事にしなさいという指摘も。今まで考えられなかったことです。そういう変化があります。
また、自立化事業に応募するために、各メーカーで事業についての議論がなされた。ニッターは中小企業が多い。仕事を終えた後、夜遅くまで親子で真剣に議論を戦わすという光景が、あちこちでみられました。そうしたことで、各企業の今後の指針がより優れたものになったと思います。国際化の中で、各企業が新しいエンジンを搭載して04年に向かうという感じがします。
――日本のテキスタイルは世界に冠たるといいますが、商社からみて実際の実力はいかがでしょう。
小寺 日本の素材はもっと自信を持つべきですよ。私はイタリアに駐在したことがあります。95年に帰国してから「イタリアを見習おう」と言ってきました。そのイタリアから何を学ぶのか。ただ、商品のまねをするのではありません。イタリアの良さは、イタリアらしさを前面に出したモノ作りをしていることにある。日本も、もっと日本らしさを出すべきです。そういうモノ作りを追求していくべきでしょう。顧客にしても、日本にイタリアらしさを求めてはいません。それなら、イタリア品を買った方がいいのですから。“日本らしさ”が重要です。
――“日本らしさ”というと。
小寺 それは産地によって、商品によって違います。商品そのものが、しゃべる力を持つ。それがそれぞれのらしさではないでしょうか。
――貝原さんは輸出も行っています。
貝原 日本の消費者が世界で一番難しいですよ。品質にもシビアです。そういう市場で認められたら、外にも打って出られます。デニムはボーダーレスな商品ですから、海外で売れない商品なら、日本での意味もありません。厳しい日本の消費者の目があったことが、我々が生き残れている理由かもしれない。
――輸出のポイントは。
貝原 海外に出るには、まずその企業のトップが海外マーケットをみることです。何でもいいですから、自ら出て行って、プレゼンテーションすること。そうすれば、苦情を聞くこともあり、向こうの要望を聞くこともできます。受け身で輸出はできません。何かにまず手をつけないかぎり、スタートしませんよ。
トライ&エラーでわかる/東京市場対策も重要
――山下さんはJCでも輸出振興委員長を務めておられます。
山下 はい。日本の素材はすばらしいですよ。だが、そのことを我々自身が知らない。何十年も下請けをしていたからです。機械が動いていれば安心という気持ちがまだあります。しかし、輸出をやることでそうしたことがわかるようになりました。貝原さんがおっしゃるように、自分でやらないとそれはわからない。
JC輸出振興グループとして海外に出展しています。各企業がダンボールに生地を入れて送ってくる。現地で事務局がハンガーを掛ける。本人がいないから。これではだめです。言葉の障害があるかもしれませんが、自分で売ってこそ、わかることが多い。トライ&エラーでわかるものです。JCとして出展を重ねたことで、当初は商社の協力を得にくかったのですが、今はずいぶん協力していただけるようになりました。輸出振興は今後も大事です。
小寺 輸出には、魅力のある商品を持って行って、バイヤーと話し合いながら、モノ作りを修正していくという作業がある。それはそれで重要です。その一方で、東京市場をちゃんと位置づけないといけません。国際競争力と同時に、国内競争力も不可欠です。やはり、足元の日本で認められなければ輸出もできません。
昔、商社が輸出していたときは、合繊8社が同じようなものをやっていたので、カバンからハンガーサンプルを出して見せるだけだった。今は小さなカッティングを持って行き、しゃべりながら生地に修正を加える。ですから、今の輸出はプロがやらないとできない。しゃべれない商社マンがやってもできません。商社マンが売りに行くとき、その商品のポイントなどを理解してしゃべるのですが、それほど知識が深いわけではない。そうなると何がしゃべるのかというと、最後はやはり商品がしゃべるんですよ。しゃべる商品というのが、尾州なら尾州のらしさであり、北陸なら北陸らしさにつながります。
貝原 プロが作った商品にはやはり何かがあり、それは向こうのプロが見たらわかるものですよ。プロとプロは、その場でディスカッションできます。それが早いモノ作りを生む。注文を1~2カ月先まで待っているようではだめです。
小寺 オーナーもしゃべるし、間に入っている商社もしゃべるし、バイヤーもしゃべるし、商品もしゃべる。それが輸出です。
貝原 フェース・トゥー・フェースは大事ですね。
――小寺さん。国内重視というと。
小寺 海外バイヤーは東京市場の重要性を認めています。来日しても、大阪を素通りして東京に行く人が増えている。東京のいろんな市場を見て回るのですが、そこで見た商品の素材がイタリア製では日本のテキスタイルを売れない。東京市場は海外のバイヤーが見て回るところですから、国内競争力は極めて重要です。
身銭を切るという意識/和の文化、品質管理力も
――日本の素材使用をもっと増やさないといけない。
山下 初めに輸出ありきではなく、国内で勝つことが輸出にもつながる。それと、作り手の論理では消費者は動きません。作り手の顔を見せないと。下請け加工ではだめです。開発には技術開発と商品開発があります。商品開発はマーケット・インからくる。技術屋はともすると技術開発に陥りやすいが、マーケティングは重要です。
一方、輸出は身銭をきって外国に行き、恥をかき、汗をかくことが大事。せっかく海外展に行っても、売場にただ立っているだけではだめですよ。海外展が世界選手権なら、JCは国体のようなものです。海外展では出展企業もある程度レベルがそろっています。今後の海外出展では事前審査というか、出展企業の粒をそろえることも重要になってくるでしょう。
貝原 私もそう思いますね。補助金を頼りにしての出展ではだめです。自分で身銭を切ることの大事さは、そこにもある。
小寺 貝原さんのところには、年間どのくらいの海外バイヤーが訪れるのですか。
貝原 以前はかなり来られましたが、一時より少なくなった。こちらからも行きますから。香港にはエージェントを置いています。
輸出には為替の問題があります。これをどう乗り越えるか。デニムは綿花代の比率が高い。綿花相場が高騰すれば、その比率が50~60%台になります。当社のデニム輸出は74年から始めていますが、デニムは輸出に適する素材です。為替が円高でも、原料費をある程度相殺するところがありますから。
――日本の強さは。
山下 日本には和服の文化があります。また、海外品とは加工力が違う。環境素材の竹の繊維や和紙糸は日本だけです。日本らしさという点では、こうした商材は武器になりますね。
小寺 品質管理という面でも、日本は他と比較するとすごい力を持っています。管理面でも日本は強い。
――商社はこの間、輸出部隊を縮小してきました。どこまで輸出支援できますか。
小寺 従来の感覚の延長で輸出しようとしてもできません。85年に100輸出していたものが、為替が円高になり、50になっているとする。50に減ったからといって、やめるのではない。50に減っても、そこには質的な違いがある。量を追いかけての薄マージンでやる輸出はなく、中身を変えていけばいいのです。
貝原 海外に出て展示会を開けば、アパレルから引き合いがあります。それを何回か繰り返せば、自分の商品のターゲットが分かるものです。昔は商社に頼んで、不特定多数のところに持って行ってもらいました。とはいえ、量がドンといける時代ではない。展示会で我々の客はこの辺りとわかりますから、そこを集中的に狙っていけばいいのです。何でもかんでもではありません。
山下 日本の輸出はまだ緒についたばかりです。点でしかない。多くの企業が10月のインターテキスタイル上海に出展しました。しかし、顧客の囲い込みなどは全くできません。顧客のフォローアップさえできていません。エージェントがいませんから。米国でやっても、やはり点でしかありません。現地にショールームがなければ商談につながらない。顧客の囲い込みという点でイタリアをみると、彼らは上海展でもすでにセールスレップを雇って、商談していました。日本は以前の国際行商人のマインドを持って臨まないといけない。
小寺 去年4月に東京に来るまで大阪でした。大阪から東京の人間に、「日本の産地の素材をもっと売れよ」と言っていました。そうすると、東京の人間は「はいはい」といいながら全然動かない。今度は東京から見ると、逆に産地が全く見えない。当社でも素材から製品まで一貫してやる方針ですが、まだ十分動けていないと思う。アパレル担当の人間には、産地の展示会にお客さんを連れていき、テキスタイル見ながら商談しなさいと言っている。商社として輸出もやらないといけませんが、東京でのOEMをやるとき、素材に入っていくところからやらないといけません。徐々にそうなってきました。
初期の目的は達成できた/産学コラボなど試みる
――JCは7回目です。どのようなことを期待されていますか。
山下 JCの初期の目的は達成できたと考えます。各産地メーカーが一堂に会し、6万5000人という来場者を集めた。しかし、もうお祭りの段階ではありません。世界がはるかにスピードアップして変化していく中においては、JCも見直しが必要です。実商売をしていかないと。海外のバイヤーも少ない。
世界のトレードショーはいま、顧客の奪い合いを行っているところです。プルミエール・ヴィジョンでも門戸を開放した。同じ時期に開くテクスワールドの方に人気が出てきたからです。米国にはフェム展、IFFE展がありますが、そこではトルコ、イスラエルがすごい勢いで、イタリアはこれを嫌って独自に開こうという動きです。世界が目まぐるしく動いています。JCもこのままではだめです。テピアでJCプレビューを行いました。これを充実させる方がいいという意見もあります。次回のJCが見直しの時期になります。
――貝原さんはどのようにみておられますか。
貝原 JCは、アパレルの企画担当者の来場が期待よりも少ないと思います。これをもう少しワークしないといけません。顧客を招待しても、他社に行ってもらっては困るという狭い考えではだめです。企画する人にもっとよく見てもらわないと。自分がレベルアップする刺激にもなるのですから。いろんな素材を見てもらうようにすべきです。日本の素材のレベルは高いのですから、まずは企画担当者に再発見してもらうこと。そこで生地についていろいろ言ってもらうことも、大事ですよ。
山下 そういう反省もあって、今回のJCは3つの新しい試みを始めました。ひとつは服飾系学校4校との産学コラボレーション。エスモード・ジャポン、杉野学園、文化学園ファッションビジネススクール、東京モード学園の4校に産地の生地を提供し、これでコスチュームを製作する。完成品は「産学連携 コラボレーションコーナー」で展示します。
2つ目がSCMコーナーを20小間ほど作りました。3つ目が輸出振興で、これまで会場の端にブースを設けましたが、会場中央寄りに設置したことです。
貝原 産学コラボはぜひやっていただきたい。当社でもデニムを1人でも多くの人に理解してもらおうと、学校に生地提供しています。彼らが卒業しても、繊維と少しでもかかわってもらえる契機になればと。会社に訪問したいといえば、受け入れています。紡績から生地までしかやっていませんが、縫製から洗い工場まで見せようと段取りしています。
山下 第1回目は出展者が少なかった。なぜ、出ないのかと聞けば、問屋に気がねをしていた。そういう面からすれば、6回のJC開催で意識変化の成果は出ています。7回目は新しい試みを入れました。ただ、今後について極論すれば、JCをそのまま海外へ持っていこうという案も出ています。「JC・イン・上海」というように。韓国は実際にそうしたことをやっていますよ。
産地エッセンスを見せる/ジャパンブランドの構築
――最近は来場者で一番多いのは商社ですね。
山下 商社はOEMをやっていますからね。JCプレビューでも商社の来場が多かったですよ。
小寺 JCは非常に意義のある貴重なイベントです。ここまで広げてこられた関係者の努力には敬意を表します。JCのそうした活動が、今のビジョンにもつながった点はあると思います。
ただ、このままいくのかという点では、発展的に中身を変える時期にきているのかもしれません。何のためにやるのかといえば、商売するためですから。今のやり方で商売の場につながるのかというと、私達のようにネクタイを締めた人間が、「やあ」というあいさつの場になっている部分があります。
――もっとビジネスができるJCに。
小寺 総合的な展示の仕方でいいのかということもあります。“日本らしさ”という点でいえば、日本らしさの中身は、その産地や企業が見えることですよ。もっと産地で何かやるとか、産地のエッセンスが見えるようなものが必要ではないでしょうか。JCを海外に持って行くことでは、輸出という観点だけでなく、海外のバイヤーの方々に産地に来てもらうためといったこともあるでしょう。そういった産地に呼び込むための、海外でのJCがあってもいいと思います。
貝原 英国から二十数人が2泊3日できてくれたことがあります。海外バイヤーを産地に呼び込むことは重要です。そのためには、仕掛けも必要ではないでしょうか。
山下 香港ではホテル代として230ドルくれます。影響力のある人は旅費や宿泊費を払ってでも呼ぶべきですね。そうした努力をしていません。
小寺 宿泊費程度は、日本繊維輸出機構が出してもいいのではないでしょうか。少なくとも、観光目的を兼ねたような市場調査団を海外に何回も送るより効果的だと思います。
山下 ニューヨークのインダストリー212では、各ブースを回るとスタンプがもらえ、何人かがイタリア旅行できるといったものもありました。そういうプロモーションも課題ですね。努力が足りません。
海外出展するにしても、企業、団体ともにもっと国際化、グローバル化していかないと海外で恥をかきます。
――来年の課題は。
山下 自立化の成功企業をどうフォローアップするか、です。
もう一つは、ジャパンブランドの構築の年ということです。テキスタイルだけが独り歩きしてもだめです。ジャパンブランドになりません。やはりアパレルと連携して、どうジャパンブランドを作っていくか。そうしたことに業界の垣根を越えて、知恵を出して考えていく年です。
来年の3月の終わりから4月にかけてテキスタイルアリーナが北京で開かれる。インターテキスタイル北京、ヤーンエキスポ、CHIC(ガーメントと服飾品の中国最大の展示会)、ニッティングフェアと、テキスタイル、糸、衣料、ニットの展示会が集中開催されます。日本もおたおたしていたら、負けてしまいますよ。
貝原 テキスタイルとファッション。しかも糸とニットが同じ場所で手当てできるというのは魅力です。そうした国際化がスピードアップしているだけに、今年自立化事業で採択された人には、ぜひ成功してほしいですね。
――来年度の自立化事業はかなりの応募になりそうですね。
山下 自立化事業の意味を本当に理解している人はまだ少ないですね。しかし、応募はかなりの数になるでしょう。
――ありがとうございました。