商社マンに聞く/にっぽん素材の実力
2004年01月07日 (水曜日)
商品力、新発想、消費者
“にっぽん素材”に力があることは間違いない。差別化糸と染色加工技術はとくに世界で抜きん出ていることから、他の国ではできない素材が依然として欧米アパレル、ストアからの期待を集めている。しかし、商品自体の力だけでは十分とは言えない。常に消費者のニーズを念頭に置いた開発とともに、今新しい発想が必要とされている。
ますます高級化へ向かう
85年のプラザ合意以降、テキスタイル輸出は縮小の一途をたどってきた。商社の輸出部門もそれに合わせて小さくならざるを得なかった。ただ、輸出する商品の内容は着実に差別化、高級化の流れを歩んでいる。
「日本の輸出品の平均単価を7~8割上回る高級品」(伊藤忠商事の中西悦朗執行役員テキスタイル・製品事業部長)。伊藤忠が米大手ストアなどに輸出する主に婦人服向けの長繊維織物の平均単価は年を経るごとに上昇してきた。欧米向けは海外品との競合から攻めるゾーンが上へ上へと向かわざるを得ない。むしろ、顧客は日本品にそんな期待を寄せているとも言える。
欧米向けに加えて、日本品を今後売り込める市場として中国が浮上している。富裕層が購入する衣料品向けに日本素材が積極的に使われ始める可能性は高い。ただここでも「欧米向けよりもっと高級ゾーンで勝負したい」(八木通商の城谷証輸出繊維部長)と高みを追求する傾向が現れている。類似商品が素早く出回る市場には、コピーしきれないモノしか通用しない。日本の人口に匹敵する富裕層が差別化、高級化された日本品の受け皿になる。
既存の枠を飛び出す発想
欧米向け輸出で高密度織物を一つの提案材料にするタキヒヨー。他社にはない商品を追い求める開発の過程で「綿製の頑丈な地下足袋を作る織機に行き着いた」(滝一夫執行役員)という。とくに地面にこすれる部分を織る工程に興味を持ち、レピアやスルザーなど高速で織る革新織機では実現できない打ち込みを衣料用素材に応用。日本ならではの加工を施して「素材の芯はしっかり、でも表面は柔らかい」独自の商品を編み出した。
テキスタイル輸出の将来を考えた時、もはや従来の発想にとらわれ過ぎた商品開発と提案の仕方では苦戦することが見えている。海外品の猛追を引き離すには、例えば、ずっと正面から眺めていた箱を上、下、横、斜めから眺め、時には箱の中に入って眺め直すような発想の転換が必要となる。同じ状態で同じモノを見続けているだけでは新しいモノは生まれない。
意識すべきは最終消費者
「産地主導の間違えた世界」。商社関係者からは、余りにもプロダクトアウト型に傾注し、市場の求めを無視した商品開発は自己満足に過ぎない、と厳しい批判が飛ぶ。
付加価値の高い商品を手掛けていくことは日本品の残された戦い方。しかし、ただ単に価値が高いだけでは、ビジネスにはつながらない。市場を分析し、顧客であるアパレル、ストアが進む方向にぴったりと合致した素材が“価値ある素材”と評価される。米大手ストア向けを主力に米国向けが強いアムホットインターナショナルは自社業務を「物理的な営業訪問ではなく、絞り込まれた顧客へのコンサルティング」ととらえる。情報収集と緻密な市場分析を前提に消費者の声に耳をすませる。「各商社、各メーカーが互いに理解し、切磋琢磨すれば輸出は必ず残る」とある関係者は言い切る。
戦いの土俵を商品力に/伊藤忠商事テキスタイル製品事業部長代行・菅原 貞光氏
日本製テキスタイルが輸出市場で生き残るためには、今まで以上に高級化、差別化を進めなければならないだろう。
差別化の糸を使い、織り・編み組織で工夫し、高い染
色・後加工の技術を駆使する。これらすべてを使い切ることでしか輸出競争力を発揮することはできない。要は、値段ではなく商品での競争に持ち込む必要があるということだ。商品力の土俵で戦えば、日本は依然としてナンバーワンだ。
差別化できる糸だと例えば、コンパクト糸、トリアセテート、「ソロフレックス」、「ソフィスタ」などがある。最近ではバンブー繊維も出てきた。韓国などの追随を許していない人工皮革も一つの武器だ。加工ならラミネーションを施すこともできるし、銀を生地に付着させることによる抗菌効果、UV(紫外線)カット機能などを加えることもできる。
幸い、アジア諸国は価格以外の面で日本と本気で競争しようとは考えていない。彼らは、最高級のモノを作るのは日本に任せておこうというスタンスだ。
だからこそ日本がなすべきことは素材からの差別化と価値ある加工となる。直近の欧米向け輸出商談でも、綿コンパクト糸と「ベンベルグ」の複合やウール素材へのラミネーション加工が欲しい、トリアセテート複合でさらに商品のバリエーションを増やしてほしいなどの要望が寄せられている。
日本の素材メーカーは海外に投資して製造拠点を設けてきたが、外に出れば出るほどとくに価格面で荒波にもまれるということに気付いた。だからこそメーカー自身がとくに最近、素材の研究開発を改めて見直そうという姿勢を持ち始めている。
全国の産地には差別化糸を使いこなす技術と付加価値を高める染色・後加工のノウハウがまだまだ残っている。そうやすやすと中国に負けることはない。ただし、もはや量を追いかけることはできない。高級品を追求していくことが生き残る道となるだろう。
発想の転換と仮説固め/タキヒヨー 執行役員・滝 一夫氏
輸出で生き残るには、モノ作りで発想を転換することと、常に消費者を念頭に置いた製造・販売活動に徹することだ。
発想の転換とは、例えば、皮の使い方がある。皮と言えば1枚のぺらぺらした布切れとして、それを衣服のどの部分でどんな使い方をするかをまず考えるだろう。こんなテーストのジャケットにするには、なめし方など加工にどんな工夫が必要かと想像を巡らせる。
しかし、当社は違う。他社からは出てこない商品を自分たちの力で新しく生み出すのがコンバーターだから、ありきたりの使い方ではダメ。そこでカモシカの皮を2ミリ幅のスリット状に切って撚糸し、織物にしてしまうということを考え付いた。スリットの幅となめし方を様々に変えることで、多彩なバリエーションも得られる。
これは「発想の転換」のほんの一例だ。現在、欧米企業には、綿を中心にした複合の高密度織物とペーパーヤーン「OJO+〈王女〉」の綿複合織物の2つの商品群を提案している。高密度織物は、生産性は低いが、しっかりした打ち込みができる古い織機を使って型崩れしにくい生地にし、加工によって柔らかな風合いを付けるなど独特なモノに仕上げている。「OJO+〈王女〉」使いは経糸に綿を使った交織で加工によって自然なストレッチ性を持たせたモノ。当社からしか出てこない商品ばかりだ。輸出は結局、商品力がものを言う。
こだわったモノ作りをすることが大切である一方で、消費者が何を求めているかを決して忘れてはいけない。時に素材メーカーや産地企業の方々で、匠の世界に陥っている人がいる。繊維業界であろうとなかろうと、川上から川下のどの段階にいても考えるべきは、最終消費者が何を求めているかだろう。技術から生まれてきたモノを四苦八苦して売ろうとするのではなく、綿密な市場調査やトレンド分析によって売れそうなモノを技術によって生み出す。技術はあくまで道具であり、まず技術ありきではいけない。
顧客と話し込む時にも、緻密な分析から得たストーリーをぶつけ、「だからこそこの商品をあなたに売る」と言い切れなければ、説得力がない。仮説がなければせっかくの商品も軟弱に見えてしまう。熱意と即断即決ができれば、最後は商品力で押し切れる。
モノ作りから始める輸出/丸紅テキスタイル部副部長・苗村 篤史氏
モノ作りから始める輸出を目指していく。プロダクトアウト型のマイファブリックは、高価格だが相当手が込んでいる素材群「プラスチック カレー」と新潟産地で独自に開発した「KKコレクション」の一部。「KK」の一部と「KK」より若干値段を下げた北陸開発の長繊維織物「mmコレクション」、浜松産地で開発した「ffコレクション」は欧米アパレルのアイデアを反映させた商品群。いずれも日本からしか発信できないようなモノ作りにこだわった素材となっている。
とくに「プラスチック カレー」は、日本の織布・染色技術を駆使して開発した素材。絡み織りした生地や麻糸に液体アンモニア加工を施して風合いを柔らかくした生地、軽さが特徴のポリプロピレンとウールとの複合織物、ナイロンモノフィラメントとウール、綿などの交織生地など大きく分けて12種類ある。滋賀や岩手、福島、山形などのメーカーらの手によるもので、いずれも1メートル1000~3000円の高額品だ。国内ですでに提案したところ好評で、生地を分かる人が見れば、その良さが分かるものに仕上がっている。
今後、モノ作りを従来以上に個別の顧客に対応する形に発展させる。それは欧米であれ、中東向けであれ、同様だ。
日本発のテキスタイル輸出を残す一つの方策として、アジアの製造合弁の生機を日本で加工するオペレーションも強めている。シルクパウダーを表面に付着させて柔らかな風合いを持たせる加工や液体アンモニア加工、起毛加工など日本の加工技術は世界で抜きん出ている。それを生かさない手はなく、アジア生機・日本加工で日本発信のテキスタイル輸出を強化する。
中東向けも日本でしかできないような付加価値の高い商品を顧客別に提案する。日本製の商品力を今後も生かしたい。
独自品から一歩踏み込む/トーメン テキスタイル貿易部長・木村 博人氏
市場全般を見渡すと、とくに米国市場に顕著だが、低価格志向は続いている。しかし、たとえ少々高価でも、必ず需要が生じる部分は存在する。必ず必要とされる「必需」という部分だ。そこを確実に攻めるべきだろう。「必需」は決してニッチではない。「ニッチ」というと小さな市場を想像してしまうが、「大きなニッチ」を探し出すのが肝要だ。
テキスタイル輸出の再興を期すには、従来的な「良いモノ」「良いテキスタイル」という売り込み方だけでは限界がある。独自企画商品ですよ、と単に見せるだけでも不十分。そこから一歩、二歩先に踏み込むことが大切となってくるだろう。
これまでのように、モノ作りの成果を携えての新規顧客開拓の重要性はむろん変わらない。ただ、それだけでは足りない。顧客が「欲しているもの」を自身で創造する段階に来ている。いわば、顧客をリードするような供給者とならなければならない。そのためには、顧客の先にいる消費者のニーズを的確にくみ上げることだ。毎日の暮らしの中で不便さを発見し、快適さへ転換させるような素材こそを消費者は求めている。
先日、ある取引先から「リップストップをS字柄にできないか」と言われたこともあった。そんな柄はこれまで考えたこともなかった。こうした「普通でない発想」こそが通用していく。
当社の独自素材ブランド「東京ベイファッション」は、婦人衣料分野でその消費者ニーズからの切り口を具体化している。現在、仕込みを進めている05春夏シーズン向けでは、課内での打ち合わせに相当時間をかけて練っている。天然素材を中心にした編集になるだろう。「東京ベイファッション」は昨年始めたばかり。透湿防水の機能素材「ジェラノッツ」も93年に販売を始めたときは、少量だった。それが今では大きな柱に成長した。「東京ベイファッション」もそのような一つの柱に育て上げたい。
カケン/機能加工の発展支える/新評価試験法も開発
日本の繊維製品は、機能加工分野で優位性を保つ。とくに健康関連素材は日本らしい独自分野を開拓したものだ。しかし、一般の健康商品はその効果が玉石混交で、不当表示の問題もあった。このため、「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」に、合理的な根拠のない表示を規制する第4条第2項が新設され、昨年11月から施行されている。
公正取引委員会はまだ「繊維業界で排除命令は出ていない」とするが、健康関連商品などへの表示は厳しくなり、不実証広告規制が強まっている。これまでは、事業者が表示の裏付けとなる合理的な根拠を有していない場合でも、公正取引委員会が表示通りの効果、性能などがないことを立証することが必要だった。
新設された“第4条第2項”では、この立証責任が事業者側に移った。公正取引委員会は、商品の内容(効果、性能など)が著しく優良であると示す表示について、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠の提出を求めることができるようになった。事業者が合理的な根拠を提出しない場合、不当表示として規制が可能。事件処理期間の短縮化と消費者被害の拡大防止ができるという。
カケン(日本化学繊維検査協会)では、「機能性の客観的評価方法が重視される。また、通販などを中心にラベルチェックだけでなく、表示チェックの依頼が増えている」という。
抗菌防臭、制菌、UV(紫外線)カット加工といった機能加工だけでなく、光触媒性能評価試験、吸湿発熱性評価試験といった新しい分野の評価試験法も開発。設備面でも環境試験室ではデータ収集のためのマネキンを入れる予定だ。
「知の専門性」の洗練/アムホットインターナショナル社長・当麻 克哉氏
「収益を上げられる日本品はあるのか」は常に考え続けていることだ。当社は米国向けへの織物輸出が中心で、大手ストアへの販売が商権の中核。この顧客は、生地の仕様や品質安定基準が非常に厳しい。前年は取引があっても安定性に欠けていれば翌年は「一から見直し」も珍しくない。安定性という意味では、中国品に比べると日本品はまだまだ一日の長がある。
生地の感度が高いのも、日本品の特徴。「東京というファッションの先端」の国から発信されたというイメージは大切だ。顧客は毎シーズン、コレクションを変更する。ファッション・ビジネスに携わる限りトレンドの動向をいち早くつかんで生地納入するのが重要となる。出資関係のある京都の商品企画会社と連携してトレンド分析をビジネスに生かしている。
香港会社の取り扱いを含めた全体のうち、現在は日本品が80%近くを占める。国内の生産規模が減少を続ける中で、どれだけ日本品を残せるかは懸念材料だ。ただ、だからといって、単に海外に発注すれば良いというものではない。ではギブアップするのかと言うと違う。海外生機の活用など個々の取引で工夫を続けるのが当面の対策だろう。
日本品を残せるだろうかと危惧を抱いていることは否定しない。事実、国内の生産能力は減少を続けているし、円高の進展がさらに進んだ場合も大きな懸念材料だ。百万ヤード単位の発注に量的に応えられるか、本当に踏ん張りきれるか心配がないわけではない。海外拠点を設ける大手素材メーカーが国内外の拠点同士の協力関係を深める必要もあるかもしれない。
顧客からの注文を請け負えるかどうかは、顧客からの「知の専門性」にいかに対応できるかだ。トレンド情報はむろん、現在なら例えば、欧州のミルコンバーターがユーロ高や綿花高にどう対処しているかなど競合相手先の価格戦略を知ることも専門性を標ぼうする上で欠かせない。こうしたナレッジワークを積み重ねることで、絞り込まれた顧客と深い関係を築いてゆく。




