植物原料繊維特集/トウモロコシ、コットン、竹、バナナ、イグサ
2004年07月09日 (金曜日)
「トウモロコシ」から/環境負荷低減も特徴
「トウモロコシ」から繊維を作る。PLA(ポリ乳酸)樹脂の開発によって、新たな植物原料繊維が登場した。PLA繊維の開発は「生分解性」を持つ様々な植物原料繊維を改めて認識させるキッカケになった。その面では植物原料繊維全体に与えた功績は大きい。
その原料を供給する米カーギル・ダウは01年、年14万トンのPLA(ポリ乳酸)商業プラントを立ち上げた。これにより、PLAはそれまでの原料制約が無くなったが、その足取りは決して速くはない。
耐熱性など物性面の問題だけでなく、コスト面、さらに、地球環境が重視されながら、生分解性素材を後押しするような法もないためだろう。
ただ、PLAには生分解性以外の特徴がある。その一つが原料段階はもちろん、製造工程におけるエネルギー使用量や炭酸ガス排出量の低さなど、環境負荷が少ない点。国内のPLA繊維メーカーは生分解性に加え、環境負荷低減特性を積極的にアピールし始めている。
ユニチカのポリ乳酸(PLA)による生分解性製品「テラマック」はフィルム、樹脂、繊維、スパンボンド不織布など幅広く展開するが、PLA100%だけでなく、他原料との複合での展開にも力を入れ始めている。これも環境負荷低減特性を踏まえたもの。
東レは先ごろ、パイル糸にPLA繊維「エコディア」を使用した家庭用カーペットを世界で初めて開発した。これも、二酸化炭素循環(カーボンニュートラル)型製品として打ち出している。
エコディアは自動車内装材とカーペットなどで先行。内装材はトヨタ自動車グループとの共同開発で「ラウム」や「プリウス」のフロアマットに採用済みだが、これもパイル糸にエコディアを使用している。
PLAにはその他、難燃性、耐光性、吸水・拡散性、静菌性(おだやかに菌を抑える)などの特徴もある。
一方で、欠点とされる耐熱性の向上も進んでいる。耐熱性が低く、射出成型、押出成型が困難なPLAだが、ユニチカはナノ技術を駆使して、結晶化スピードを100倍近く速めることに成功した。これにより、耐熱性が120~130℃(従来、50~60℃)に向上、この技術により、食品容器などの拡大に力を入れる。
2社に加え、クラレ「プラスターチ」、カネボウ合繊「ラクトロン」が国内で展開してきたPLA繊維だが、カネボウ合繊が9月末で生産停止することを明らかにしている。
「コットン」から/ベンベルグ用途拡大
「コットン」。天然繊維の代表だが、そのコットンの種を包むうぶ毛(リンター)を銅アンモニア溶液に溶解して生産するのがキュプラ繊維だ。
長繊維と短繊維があり、断面は円形(レーヨンは菊花状)。吸放湿性、制電性、すべり性、低刺激性、ドレープ性、発色性、複合容易性、生分解性など。旭化成せんいの「ベンベルグ」が世界生産の大半を握るオンリーワン素材だ。
03年生産量は1万4760トンと前年比7・2%増。04年1~5月は8%減だが、「ベンベルグ」は今、用途拡大が進んでいる。
約5割を占める裏地、約3割のアウターに加え、インナー、スポーツ、寝装で評価を高めている。
インナーでは綿素材の牙城である肌着を開拓。グンゼのニューベーシックインナー「YG―X」の基幹素材だ。ポリエステルとの複合糸として使用される。スポーツウエアも同じく複合糸使いで、05年春夏では10ブランド近くに採用される見通しと言う。
寝装品でも04秋冬から西川産業がアクリルとの混紡糸で採用している。
「竹」から/本来の機能性にも注目
バンブーレーヨンが世に登場したのが02年。竹そのものの繊維を使った素材も昨年から登場し、まさに繊維業界における“竹”ブームの真っ最中だといえる。
竹繊維、バンブーレーヨンともに竹そのものが持つ抗菌性を保有する。混率によってSEKマークを取得できるかどうかは変わってくるが、清潔感を持ったクリーンな素材としての注目度は高い。
バンブーレーヨンの場合、吸放湿性に優れ、ソフトな風合い、柔らかい肌触りを特徴とする。接触冷感もあり、着心地もいい。野村産業、東レ、クラボウ、日本毛織、東亜紡織が「竹マーク」を使用し拡販を進める。
竹そのものの繊維を使うのは、富士紡の綿混素材「着る竹工房」と、クラボウの「草木布」シリーズ(綿混)、100%の「笙竹」。竹繊維そのものはラミーと非常によく似た素材で、今後、夏季商戦での有力なアイテムとして成長する可能性が高い。
「バナナ」から/環境にも配慮した素材
今年、6月に開かれたタイ国衣料品展では、チェンマイのマイトリー・ルンルアン社の展示したバナナ繊維が注目を集めた。タイのバナナは、他のアジア諸国のバナナと比べ、繊維が柔らかいという特徴を持つ。
手作業で表面から引きはがしていくため、手間がかかる。薬品で溶かす方法もあるが、あくまでも“天然”にこだわる。
バナナ繊維の先駆者ともいえる日清紡は、フィリピンのミンダナオ島で栽培しているバナナの茎を原料にする。今春夏向けにふとんカバー素材として商業生産を開始し、少しずつ用途幅も広がってきた。
一方で、同じバナナの種類である芭蕉を使った原糸開発も進む。クラボウは「草木布」シリーズで、奄美大島の糸芭蕉から繊維を取り出し、綿との混紡糸を展開。またサンランド(大阪府泉南市)でも、実芭蕉の繊維をわた状にし、綿との混紡糸を開発。徐々に商品化され、消費者が手に取る機会が今後、一段と増えてくるだろう。
「イグサ」から/意外な機能性を持つ素材
日本人が住生活の中でなじみのあるものといえば畳。その畳の原料がイグサであることは周知の通りだ。しかし、イグサが優れた機能性を持つことはまだまだ知られていない。
イグサは空気中の二酸化窒素を浄化(無害な一酸化窒素に変える)する作用がある。また、湿度の高い時は無数の気孔から湿気を吸い込んで中に蓄え、乾燥している時はスポンジのような内部に蓄えた水分を放出し、空気の温度を調整する。汗ばむ季節でもべとつかず、サラッとした感触を得られる。
イグサを綿と混紡し、原糸を展開するのがサンランド(大阪府泉南市)とクラボウだ。いずれも綿との混紡糸で展開する。
サンランドの場合、イグサ畳表の端部分60キロから厳選し、最終的には2・2キロの原料から紡績する。
手間隙掛かるだけに、商業ベースになるのも難しい部分もあるが、21世紀を考えるエコロジー素材として注目が集まる。