紡績技術特集/リング精紡糸

2004年08月23日 (月曜日)

品質安定と開発指向で主流

 わが国では、リング精紡糸を生産するリング精紡機の設備数が圧倒的多数を占める。空気精紡機や結束紡機よりも工程数が多く、手間が掛かるものの、品質が安定し、きれいな原糸を生産することができる。これは品質に厳しい日本人の性格を反映した結果だといってもいいだろう。また、特殊糸の製造に使われる場合が多く、開発型精紡機としての位置づけが強い面も、多くの紡績企業が取り入れる理由に一つと言える。

富士紡/紡績で3つのこだわり

 富士紡の紡績には3つのこだわりがある。一つは「細番手」。現在、純綿糸で160単糸が本生産ラインに乗っている。精紡交撚では純綿糸「プライマース」(220双糸級)も生産する。

 原料、混紡へのこだわりにも定評がある。今春、精製セルロース繊維「レクセル」80%・ウール20%混素材を開発。ウールのバルキー性や機能性を持ちながら、チクチク感がなく、レクセルのドレープ性も兼ね備えた“きれい目”な素材として打ち出す。

 リネン・綿混糸(織物「ランライル」商標)も、通常リネンが20%混以上は難しいと言われながらも、50%混糸(40単)も開発。現在では70%混糸までの紡績技術も確立し、100%糸の開発に向けて取り組む。

 ほかにも、シルクやレクセル、綿の混紡(織物「エクサンズ」商標)や竹そのもの繊維の綿、ポリエステルなどの混紡糸(織物「着る竹工房」商標)など、他社にはない混紡素材に注力する。混紡以外でもエジプト原綿の落ちわたを使ったムラ糸「カプリース」は、自然のスラブを生かした素材だけに“ナチュラル・スラブ”“エレガント・スラブ”と呼ばれ、好評だ。

 原糸開発コンセプトは、テキスタイル部隊の掲げる“DCDS”に沿う。DはDry、CはClear、DはDrape、SはSoftの意味で、それをいかに引き出すかを日々研究する。紡績の大分、豊浜工場(香川県)と、小山工場(静岡県)内にある商品開発研究所などが取り組み、“富士紡”らしさのある原糸開発を進める。

日清紡/客の料理しやすい原糸提供

 日清紡の原糸開発は、特定顧客と取り組んだものが多い。すでに、糸売上高の「2割」(岡田年功原糸課長兼開発原糸課長)を、そのような形で開発した特定顧客専用糸が占めている。

 しかし、開発のコンセプトは、不特定多数に売る差別化糸であっても、特定顧客専用糸であっても変わらない。すなわち、「お客さんが料理しやすい糸」を提供するのが日清紡の基本スタンスだ。

 例えば、軸が綿でカバーリングも綿という奇妙な原糸「ファインソフト」。コアヤーンでポリエステルやポリウレタンなどを軸にした素材はよく耳にするが、綿を軸にするのは珍しい。綿にはそれほど伸度がないだけに、コアヤーンにする難しさはひとしおだ。

 展開番手は32双糸が中心。顧客によってはそれ以上の細番手を求めることもあるが、「せっかく商品にしても、手間をかけた部分が表現しにくい」という理由で、どうしても32双糸が中心だ。こういったこだわりがあるからこそ、逆に多くの顧客が同社に原糸を買い求めるのだろう。

シキボウ/単なる二層構造糸ではない

 シキボウの二層構造糸は、通常の二層構造糸とは少し違う。芯をポリエステルやトリアセテートなどの長繊維に、綿でカバーリングするまでは他社の原糸と変わらないのだが、完全に「カバーリングしない」という部分が大きな特徴と言える。

 もちろん、技術力がないのではない。逆に技術力があるからこそ、なせる“業”だ。単なる不完全な二層構造糸であれば、織物、ニットなどにすればB反、C反になるだけだ。

 そのため、同社では、わざとカバーリングを不完全にする原糸を二層構造糸と言わず、「複重層糸」と呼ぶ。芯の合繊部分を見せることで、通常の二層構造糸とは違った風合いになり、「光沢感、ドレープ性が表現できる」(坂野和男技術部長)。

 混率は長繊維65%・綿35%が主流。長繊維にポリエステルを使うのが「メリンコール」、トリアセテート「ソアロン」を軸にするのが「チコリーノ」、そしてアクリル長繊維「シルパロン」を芯に持ってきた今年開発の「トリペラ」の3品種が複重層糸だ。伸縮性に優れた3GT・ポリエステル複合糸「T―400」を用いることで薄地生地でもストレッチ性を付与する化画期的な「ニュー・パワール」もその系統を受け継ぐ。

 複重層糸とともに力を入れるのが精紡交撚糸。毛羽の少ないのが特徴だ。その発展型として開発したのが、単糸でありながら毛羽を極限にまで減らした「LS―Y」。秀逸な素材として評価は高く、純輸出向けにも多い。

 いずれも紹介した素材はテキスタイルで展開。原料の選定から、紡績、加工までのトータル面の工夫によって、他社にはない独自素材を多く生み出す。