紡績技術特集/複合紡糸

2004年08月23日 (月曜日)

複雑に絡み合う“点”と“線”

 複合紡糸の意義は、異種繊維を複合することで相互の欠点を補完する“優位結合”にある。また、高付加価値、高機能性といった面でも、通常原糸に対する優位性が生まれる。その開発の機軸はリング精紡機にあるが、あえて「複合紡糸」の項目を設定し、その技術に力点を置く東洋紡とクラボウに注目する。

東洋紡/複合化で機能性を追求

 紡績技術の中でも複合紡糸技術では「先端を行く」と自負する東洋紡。その東洋紡が10年以上前から、高次複合混繊糸「マナード」、特殊粗紡方式による二層構造糸「スキート」、「ビフォンヌ」の3つを軸にした原糸開発を進めてきた。

 まず、二層構造糸技術を生かして開発されたのが長短繊維の複合二層構造糸「セレファイン」。芯に太繊度の長繊維、鞘に短繊維をカバーリングした素材だ。

 単なる二層構造糸ではない。セレファインは高配向の複合構造繊維束を複数に分けて形成した後、それらを特殊技術で二層構造に形成。配向が乱れるのを極力防止しながら紡出するため、繊維密度の高い紡績糸となる。そのため、強力やモジュラス(一定のひずみを与えたときの応力)が高く、ハリ・コシがあり、毛羽も少なく均斉度に優れるといった特徴を持つ。

 セレファインの逆パターンとして「フィラシス」も他社にはない特殊紡績糸だ。厳密に言えば、最内層と最外層が長繊維で、中間層が短繊維の3層構造糸だが、大きく分けると芯が短繊維、鞘が長繊維の二層構造糸で、長繊維で被覆することにより毛羽が僅少となり、均整度、光沢感などに優れる。糸表面は水分移行性がありながら吸水性のある機能性も持つことになる。

 さらにセレファインの発展型として、長繊維を交撚した「コアフィル」、マナード技術を組み合わせた二層構造糸「ポスフィナ」なども複合紡糸技術の中で誕生してきた。

 衣類と皮膚間の快適性を追求する「衣服内気候」シリーズの素材「アルザス」は、いわばビフォンヌとマナード技術を掛け合わせた原糸。図に示した三層構造で、水分・熱の移動メカニズムを持たせるという、最先端の原糸開発の真骨頂を見せる。

 結束紡機による特殊紡績糸開発も約20年間掛かって、ようやく商業生産ができるまでに至った。その原糸がいわゆる「セレス」だ。芯鞘異撚構造糸と言えるセレスは、異撚の状態に変化を加えることで、機能性のバリエーションを持たすことも可能。吸汗速乾性、抗ピリング性(4級)に優れた「セレスドライ」や、若干ふくらみを持たすことで保温性を高めた「セレスエアー」の開発にも成功した。

 テキスタイル商品開発センターの谷田光雄部長は、今後もさらなる紡績技術の複合化を進める考えだ。所有するリング紡機、結束紡機などの紡機を飛び越えた複合化も視野に入れ、東洋紡独自の「紡績技術の追求」を続ける。

クラボウ/二層構造糸技術を応用

 クラボウは、10年以上前から二層構造糸の開発に取り組む。その開発の中で生まれてきたのが、芯のポリエステルを綿でカバーリングした「シャレード」だ。今でこそ二層構造糸は、ごく当たり前の紡績糸として存在するが、その二層構造糸技術を応用し、様々な原糸開発を進めている。

 クラボウの二層構造糸技術はFCM(フォーカスメソッド)方式が基本。FCMとは異なる素材を芯鞘構造に紡出する技術を意味する。二層構造糸は、一般的にコアヤーン方式である精紡段階や、コストメリットのある粗紡、練篠段階での紡績方法があるが、クラボウは精紡段階前の特殊改造装置で生産する。

 さらに“スピニング・コンポ”(高度な複合紡績技術による差別化複合糸開発プロジェクト)の一環として開発したのが、シャレードのいわば精紡交撚タイプ「クレメル」だ。精紡交撚とは、紡績工程で2本の粗糸をそれぞれドラフト・ローラで細くしたあと、1個のリングに掛けて撚り合わせたもの。当然、二層構造糸の精紡交撚は技術的に難しい。交撚段階で二層が崩れてしまう可能性が高いからだ。

 精紡交撚糸にしたことで、毛羽立ちが少なくなり、目面のきれいさ、吸水速乾性も向上し、部屋干し対応素材としても有用だ。実際、レギュラー純綿スムース生地と比べると乾燥時間が約3分の2に短縮する。

 そのような高度な複合紡績技術の中で、最近、新たな分野も開拓しようとする。その試みが、二層構造糸とコンピュータスラブ糸「ウェイビーマジック」の融合だ。本来、“意匠糸”の項目で紹介すべきかもしれないが、ここでまとめて、クラボウの紡績技術を紹介する。

 ウェイビーマジックはフラクタル理論に基づいて開発したものだ。フラクタル理論とは「複雑で不規則な図形では、どの微小部分にも全体と同様の形が現れる自己相似性があり、したがって部分を次々に拡大すれば全体の形が得られるとする理論」(小学館『大辞泉』)。

 この理論を持って、自然界にある不均一さ、複雑さを解析し、先端技術でこれまでにないナチュラル感にあふれた原糸を生み出した。まさに「ハイテクを駆使して、ローテクをものにした」(加藤則道綿合繊事業部営業統括部マーケティンググループ主任部員)と言っても過言ではないだろう。

 昨年、そのような理論を駆使したウェイビーマジックをコンパクト糸「コレーナスピン」に掛け合わせたムラ糸を開発した。デニム向けには「クリアスカイ」という別称で展開。「きれいなムラ糸を求める声が強くなってきた」(綿合繊事業部技術部技術課・上西恵氏)ことから、美脚ジーンズなどに好評だ。

 そして、シャレードとウエィビーマジックを組み合わせた原糸を来春向けから展開する。スパン同士の二層構造糸でありながらムラを出すのは非常に難しい。100%カバーリングすることは不可能に近いが、より高被覆率を目指し、開発研究を進める考えだ。

 今のところ研究段階だが、防縮ウールを芯に綿でカバーリングした二層構造糸「ルナファ」や、綿の部分をバンブーレーヨン「凛竹」に置き換えた「凛竹ルナファ」とウエィビーマジックとの組み合わせにも挑戦する。

日東紡/「C・S・Y」の新タイプ導入

 繊維業界でコアスパンヤーンの代名詞として定着しているほどなじみが深いのが、日東紡の「C・S・Y」。そのC・S・Yの新タイプを、今後同社の生産するC・S・Yのスタンダートとして打ち出したのが、毛羽の少ない「パーフェクトC・S・Y」だ。

 きれい目な表面感へのトレンド変化に対応したもので、年内には新潟工場(約4万錘)に置くC・S・Y設備の約15%が同原糸を生産できるようになる。

 同原糸はコンパクト精紡ではなく、独自の紡績技術により毛羽を少なくし、糸形状を緻密に構成したもの。クリアーな外観、上品な光沢感、繊細でふくらみのある優しいタッチなどが特徴。同社試験によれば、毛羽指数はコーマC・S・Yに比べ半分以下を実現している。

 糸値はレギュラー糸に比べ2割高。テキスタイル販売で先行するが、糸売りも視野に入れる。

 同社は新潟工場で生産するC・S・Yを、パーフェクトC・S・Yや化繊複合など差別化糸にシフトする戦略に取り組む。

 化繊複合ではとくに「マイクロモダール」使いの「MMO―C・S・Y」が好調に売れている。「コアスパンヤーン全体の生産量のうち、2~3割を占めるまで成長」(森本裕彦執行役員繊維事業部門副部門長兼原糸素材事業部長)した。

 また、コンピュータ制御によって紡績したスラブ形状を持つ「HMS―C・S・Y」は、コアスパンヤーンでありながら、斑表現を出せる画期的な原糸だ。まさにコアスパンヤーンの第一人者として、日東紡の開発には目が離せない。