学生服特集/新局面迎える学生服業界
2004年09月27日 (月曜日)
来入学商戦への展望
「学校が制服に何を求めているかを把握することが一番大切」と、あるアパレルの役員は話す。学校再編の影響を受けて増加するモデルチェンジ校。しかし、更新を実施する理由は、共学化や統廃合など、各学校によって異なる。だからこそ、「デザイン、パターン、価格に高度な水準を保ちながら、それぞれの学校に合わせた提案をしないといけない」と続ける。業界は少子化、買い控え、単価下落という慢性的な問題を抱える一方、小中一貫校やカネボウの今後といった新たなトピックも出てきた。素材メーカー、商社、アパレルの来入学商戦に向けた課題と取り組みを追った。
決算見通し/大手は3社が微増収確保
大手学生服4社の今年の決算は3社が微増収になる見通しだ。
決算期は5~7月に集中しており、明石被服興業は5月期決算をすでに公表。6月期決算のテイコクと瀧本、7月期の尾崎商事も9月下旬から10月上旬にかけて発表する予定だ。
学生服市場は少子化による生徒数の減少、お下がり、単価下落などが進み、毎年数%の増収をしないと前年の実績を確保できない厳しい環境にある。昨年は明石被服興業が大手4社の中で、微増収増益を計上したが、今年は同社に加え、尾崎商事、テイコクの3社が微増収を確保する見通しだ。
明石被服興業は5月期で売上高が前期比0・4%増の170億円、経常利益が同40%減の3億4400万円の微増収減益だった。関東地域での新規学校物件の獲得が貢献し増収を果たしたものの、法定福利費の月額報酬から年間報酬への変更、東京・大阪各支店の増員に伴う経費増、入札による単価下落などの影響で減益となった。
尾崎商事は微増収になる見通し。とくに「リーボック」の採用が進んだ学販スポーツウエア部門が貢献した。学生服部門も「エル エコール」の店頭向けやモデルチェンジ商戦の学校獲得が順調に推移したという。
テイコクも増収になる見込み。学生服、スクールスポーツ、ビジネス・介護の3部門がそれぞれ増収を果たした。新規の学校の獲得や新ブランドの「オリーブ・デ・オリーブ スクールレーベル」が当初の目標売上高より2倍近く伸びたことも貢献した。
一方、瀧本は微減収になる見通し。今年6月に発表した「ベネトン」は学生服だけでなく、学販スポーツウエアも展開する。中高生向けの雑誌に広告を出すなど、積極的にアピールしている。
ブランド戦略/大手が相次いで発表
学生服製造卸の大手4社は6月に相次いで、新ブランドの発表や展示会を開いた。
尾崎商事は展示会で「ミッシェルクラン」の小学生服と自由通学服向け制服を発表した。後者は制服だけでなく、リボンやカバン、傘などの関連アイテムも提案する。
瀧本は「ベネトン」の学生服の発表を東京の「ベネトンメガストア表参道」で行った。学校対応と店頭売り自由服の2ラインを展開する。それぞれ、制服の上下だけでなく、コートやベスト、セーター、リボン、バッグ、トレーナーなど、関連商品も豊富に提案し、トータルコーディネート可能な強みを生かす。
さらに、明石被服興業は畠山巧デザイナーとの協業による小中高一貫対応企画「テ・アシュ・デ ラ メゾン アレアンクラス」のデビューコレクションを東京で開いた。今月中旬には学販スポーツウエア部門でライセンス契約を結んだデサントとの展示会を開催した。
一方、いち早くブランド戦略を取り、「コムサ・デ・モード スクールレーベル」や「オリーブ・デ・オリーブ スクール」などを立ち上げたテイコクは6月に展示会を開催。今後は両ブランドの深耕を図りつつ、自社ブランドの再構築を進める。
小中一貫校/小学生服拡大の契機に
「小学生服市場拡大のきっかけになるのでは」と期待が寄せられる小中一貫校。その先陣を切るのが06年に開校予定の東京都品川区の日野中学校と第二日野小学校のケースだ。
品川区教育委員会指導課の藤森克彦指導主事によると、来月4日に両校の校長やPTAの役員などが集まり、小学生に制服を採用するかどうかの検討委員会を開く。
藤森指導主事は「品川区は小中学校を『6・3制』から『4・3・2制』にする予定。しかし、現在は中学生だけ制服を採用しているので、6年生から7年生に上がるときに制服を着るという事態になる」と指摘。さらに、「私服にすればいいという意見もあるが、我々としては全ての生徒が同じ制服を着ることで、生徒同士に一体感が生まれると考えている」と続けた。
もちろん、4日の話し合いで全ての答えが出るとは限らないが、今後の動向に注目が集まるのは間違いない。
中堅アパレル/多くが微減基調に
大手は今年度の決算で3社が増収見通しだが、中堅アパレルは全体として微減基調となっている。
小郷産業は7月期で微減収ながら利益率は改善する見通し。定番詰襟服と小学生服は健闘したが、体育衣料と布帛シャツの不振が響いた。
児島の12月期決算に向けた商況は、8月末段階で主力の学生服が1%減、スポーツウエアが2%減で推移している。石合繁則スクールユニフォーム部長は「最低限、横ばいを維持できるよう、12月期に向けてスパートをかけたい」と話す。
今年は基礎固めの年としてコスト削減とモノ作り体制の見直しを進めるトーアレディース。12月期決算に向けては、スクール部門は計画より微減で推移している。
金原の学生服部門は7月期で前期並みの売上高を確保した。同社と取り組む専門店が健闘したことに加え、新規の百貨店販路を獲得したことなどが奏功した。
04年8月期に前期比微増収を果たした佐藤産業のスクールウェア事業部。矢部明事業部長によると、下げ止まり感は出てきたものの前期も単価下落傾向が続いた。この環境下で、18校の新規納品を獲得したことが微増収の要因となったとする。
台風16号/児島産地に被害
8月31日未明、中国地方を襲った台風16号の影響で、児島地区の一部の学生服製造卸に被害が出た。
この台風で、石井産業やサンアミは商品や原反の一部、機械類などが海水に浸かった。明石被服興業は本社の1階のフロア、物流センター、本社工場が浸水したという。小郷産業も倉庫の商品の一部が水に浸かった。
明石被服興業や小郷産業は懸命の復旧作業により、次の日には普段どおりの業務に戻れたという。サンアミも9月2日には工場が稼働し、現在は倉庫の片付けも終了している。一番被害が大きかったと思われる石井産業も「海水に浸かった商品や原反に関しては、保険が適用され、100%保障される」(石井均社長)という。9月中旬からは工場も稼働し、月末には新しいCAMを投入する。
「何十年も児島に住んでいるがこんなことは初めて」と皆が口をそろえるほどの災害となったが、入学式シーズンでなかったことが、不幸中の幸いといえるかもしれない。
カネボウ大垣工場/プラスチック業者が買収
カネボウの天然繊維事業撤退の発表以降、その去就が注目されていたカネボウ大垣工場。一時は清算のうわさもあったが、結局、プラスチック製品製造販売の三甲(岐阜県瑞穂市)が買い取ることになった。
同社はもともと、梳毛紡績を手掛け、1万錘強の紡機を持つ。カネボウとは40年以上にわたる取引があり、主にユニフォーム用途でカネボウの賃紡も請け負っていた。
カネボウと取引があった業界の関係者からは「学生服はリピート商品なので、事業継続が決まり安心した」や「学校に対して、これからも大丈夫と言える」という歓迎の声が上がった。
しかし、この間、取引先の中にはカネボウ素材から他社に置き換えを図る動きがみられたという。あるアパレルは「買収先が決まったとはいえ、正直不安は残る。事前にあらゆる手を打っておかないと」とし、素材メーカーの担当者も「そういう声があることは聞いている」と話す。また、「カネボウの商圏が違う素材メーカーに移れば、業界のパワーバランスが崩れる」という声も聞かれた。