ウール総合特集・がんばる羊毛紡績

2004年11月17日 (水曜日)

逆境なんて吹き飛ばせ!

 昨年高騰したウール原毛価格は落ち着き、豪州羊毛も増産傾向にある。そのため中国の好調さを十分吸収し、羊毛価格も安定的に推移する。中国産梳毛糸の価格も、ここ数カ月40双糸で1キロ当たり1150円前後と大きな動きはない。若干の需要を反映してか、細番手が強含みだ。世界的には在庫調整が進み、回復基調にあるウールだが、日本ではカネボウをはじめ、梳毛、紡毛関係の紡績が相次いで撤退するなど、依然厳しい状況に置かれている。

カジュアル化がカギ/新しい市場創出の可能性も

 日本毛織の柴田冨造企画開発部長は、ウールの需要に大きな変化をもたらすのは「団塊の世代」(1947~49年生まれ)だと指摘する。定年を60歳だと仮定すると2007年から10年にかけて彼らは退職し、ウール中心のビジネススーツを着なくなる。カジュアル衣料への移行は、魅力的なウール素材を使った衣料を打ち出さない限り、ウール需要の減少を指す。

 逆に新しい市場の出現ととらえることもできる。東洋紡テクノウールの宇佐美博之テキスタイル第1営業部課長は「スーツ需要は確実に減る」と見越し、団塊世代へのカジュアル向け衣料の提案を強化。上質感、高級感を損なわない綿やシルクとウールの複合素材を開発し、ジャケット、スラックス素材としてブランドメーカーへの販路開拓を進める。

 第2次ベビーブーム世代(71~74年生まれ)も新しいウール需要を創出するカギを握る。高級化志向の流れは、これらの世代に新たなウール需要を巻き起こす可能性もある。

 各社とも原料にこだわった商材は多い。日本毛織は今年、社内的にも見直し、ニュージーランドメリノ使いの「MAF」をジャパン・クリエーション2005(JC05)に出展するなど、大きくアピール。

 東亜紡織もニュージーランドメリノ100%使いでは「シーランドウール」をスーツ向けに展開する。

 東洋紡テクノウールは、スパニッシュメリノの純血種による希少な羊毛を使用。東洋紡がエジンバラグループと提携し、徹底した品質管理で製品化した高級素材「カムデンメリノウール」など数多くの原料特化素材を展開する。それらを自社の持つ機能素材を組み合わせた素材開発を模索している。

WG機の広がりに期待感/新しいビジネスモデルへ

 島精機製作所の島正博社長は、中間決算の席上で、「川上との取り組みは進んでいるか」との記者の質問に、「ここ2年でホールガーメント(WG)横編み機に適した原糸開発を積極的にやってもらっている」と、紡績に対し一定の評価を示した。

 その前までWG機のための原糸開発などは「見向きもされなかった」と、島社長は述べる。紡績にとっても、今後確実に増えるといわれるWG機に対し、何らかの手を打たねばならないだろう。

 十数年前から、顧客の以来でWG対応の原糸を開発し「仕掛けは早かった」と話すのは、東亜紡織の鈴木早秋毛糸営業副部長。WG対応糸という位置づけでの原糸販売はしていないが、島精機製作所からの依頼で原糸を供給するなど、WGのための原糸開発には定評がある。最近は、ストレッチ糸が人気だという。

 豊島紡績(岐阜県安八郡)は今年、WGの試験機を導入した。単にWG専用糸の開発だけでなく、コンピューターの意匠デザインシステムを活用し、顧客とのデザインの共有化などを進める企画提案型の新しいビジネスモデルの構築も手掛ける。

 ほかにも深喜毛織(大阪府泉大津市)がWG専用の工場を作るなど、WG機そのものを導入し、開発に生かそうとする紡績が増えてきた。

 これまでのWG機の販売台数は累計で国内1150台(04年9月期)にまで拡大した。日本羊毛紡績会もWG機の浸透が今後のウール回復基調につながるとの見方を示している。

獣毛混素材の開発が増加/高級志向が強まる

 最近、目立ってきたのが獣毛混素材の開発だ。羊毛紡績だけでなく、綿紡績も開発に積極的だ。

 龍田紡績(兵庫県姫路市)は、来月開催されるJC05の目玉商品として、カシミヤ・綿混素材を開発した。新内外綿でもカシミヤ・「テンセル」混素材「セルラーナ」は今秋冬向けで「糸換算で20トン」(四宮宜弘ニット部長)販売するなど引き合いは多い。

 カシミヤ以外でもモヘヤ、アルパカなどを使う動きも活発化する。帝国繊維は豊島紡績と共同で、モヘヤ・麻混を開発。冬向けの原料と夏向けの原料を組み合わせることで、梅春、晩秋向けに麻素材の浸透を図る。

 日清紡のニット部では綿とアンゴラ混素材を投入。アンゴラは美しい光沢と、柔らかさがあり、中空構造になっていることから軽くて高い保温性がある。ウール素材にありがちなチクチク感も低減できることから「肌に近い」Tシャツやインナー向けに提案する。

 日本毛織の樫根哲郎取締役紡績事業本部副本部長は、「ウールの本格的な国内需要について、まだ実感はわかない」と述べるものの、レディース向けのツイードが好調なことや、コットンブームの沈静化で、需要が上向く要素はいろいろあると分析する。中国産梳毛糸の価格は1キロ1150円前後。この値段は機業にとって手頃感があり、来年に向けて買う動きがあればそろそろ価格も上昇するはずだ。すなわち仮需の動きが出てくれば、ウールの本格的な回復を実感する初期段階と言える。

 しかし、ウールそのものがヤング層であまり認知されなくなっているのも事実だ。同社の柴田企画開発部長は「もっとウールの良さをアピールしなければ」と、業界全体での取り組みの必要性を指摘する。ウール復権を目指すのであれば、消費者にもっとウールの良さを知ってもらうことが最短の道だと言えるだろう。

トピックス・こんなところにも羊毛が!/ピアノで活躍

 紳士、婦人服地では高価格に位置するウールだが、実は意外なところでも活躍している。その一つがハンマーフェルトと呼ばれるもの。

 羊毛を乱暴にもみ洗いすると、小さく、硬くなってしまう(縮絨性)欠点がある。これを逆に利用したのが羊毛フェルト。羊毛フェルトは断熱性、保温性、緩衝性、防音性などが特徴を持ち、毛毯やビリヤード台など幅広い用途で使われるが、ピアノにもこの羊毛フェルトが使われる。

 ピアノの弦を叩くハンマーフェルト、残響を消すダンパーフェルトなどがそれだ。

 日本毛織の子会社であるアンビック(兵庫県姫路市)は羊毛フェルト、不織布の大手。ピアノ生産の中国生産シフトに対応し、中国の江陰安碧克で、03年末からハンマーフェルトの中国生産も開始している。