入門/生活・産業資材の世界

2004年12月07日 (火曜日)

 繊維を使用するのは何も衣料品だけではない。その用途は実に幅広く、衣料よりも非衣料の方が市場規模は大きい。どうしても華やかな衣料品にばかり目が向き、繊維=衣料というイメージが定着しているため、衣料が繊維の全てだと、考えられている。しかし、それはまさしく「木を見て森を見ない」のと同じ。そこで、「入門・生活・産業資材の世界」と題して、日本の繊維産業を支える非衣料の世界を一から少し覗いてみることにする。

繊維産業の屋台骨は非衣料/ミル消費の7割強を占める

 「日本の繊維産業は今、非衣料が支えている」。そのことを数字で証明してみよう。日本化学繊維協会が毎年発表する化学繊維ミル消費量調査をみれば、それが明らかな事実だと分る。

 日本の化学繊維ミル消費は縮小の一途をたどっている。97年と03年を比較すると、実に6年間で3割も減少しているが、中でも衣料用は5割減とその落ち込み幅が大きい。

 過去6年間での転換期は99年、家庭・インテリア用が衣料用の消費量を抜いたこと、そして02年、産業資材用が衣料用を上回ったことがあげられるだろう。

 家庭・インテリア用、産業資材用もミル消費は減少しているが、その幅が小さいため、全体に占める非衣料比率は高まり、03年度では日本のミル消費量の7割強が非衣料となっている。つまり、非衣料の動向を知らずに、日本の繊維業界を語ることは片手落ちと言える。

存在感高まる不織布

 その非衣料の中で存在感を高めているのが不織布だ。最近、繊維業界でも「不織布」という言葉を耳にすることが多くなった。それは右肩下がりの繊維業界において、唯一、不織布が生産量を維持しているからだ。輸入も増加傾向にあるものの、綿紡績や合繊に比べればまだまだ少ない。

 ただ、不織布は一つではない。合繊がポリエステルだけではないように、そして、織物や編み物にも様々な種類があるように、不織布も様々な製造方法がある。用途展開も幅広く、不織布という一言で、不織布を語ることは誤りだ。

 矢野経済研究所及び日本バイリーンの独自調査によれば、02年、日本の不織布メーカー販売高ベスト10は日本バイリーン、旭化成、ユニチカ、三井化学、日本フェルト、呉羽テック、王子キノクロス、市川毛織、フジコー、クラレが並ぶ。各社とも不織布製造という面では共通するが、生産品種、用途展開は千差万別で、大きな違いがある。

 そこで、千差万別の不織布について、基本的な部分を学んでみる。

不織布の製法は大きく3つ/その中でさらに細かく分類

 不織布は文字通り「織ったり、編んだりせずに布地にしたもの」。製法は大きく分けると湿式、乾式、直接式の3つになる。

 湿式不織布は非常に短い繊維(ショートカットファイバーと呼ぶ)を紙のように、水の中で均一に分散させて網の上に流して脱水、乾燥させて生産する。不織布の中では生産量が年間1万8000トン~2万トンと少なく、大きな変動もないため、詳細は省く。

乾式法/繊維を様々な手法で接着

 不織布製造法で最も多いのは乾式不織布と呼ぶもの。日本の不織布生産量の約6割を占めている。

 化合繊短繊維や毛、綿など短繊維を使用するため、短繊維不織布とも呼ぶ。紡績と同じく梳綿工程(カード)によって、シート(ウェッブ、フリースなどともいう)状にする場合とパルプやパルプ状の化合繊を空気でシート状にする。

 しかし、シート状にしただけでは強力がなく、すぐに破れてしまう。それでは布にはならない。

 この弱いシートを強くするため、接着剤で繊維同士を接着したり、低い熱で溶ける繊維(熱融着繊維)を混ぜて、その繊維を後で溶かして繊維同士をくっつける。あるいは数多くの針を刺したり、抜いたりして繊維を絡ませたりする。針の替わりに高圧水流をウェッブに打ち付けて繊維同士を絡ませる場合もある。その接着方法によって、不織布製造法の名前が決まる。

 接着剤を使用するものはケミカルボンド(レジンボンドとも呼ぶ)、熱融着繊維の場合はサーマルボンド、針で絡ませるのはニードルパンチ、水流を使うのがスパンレースと呼ぶ。この4つが乾式不織布の大半を占めている。

 ケミカルボンドは接着剤の種類によって、様々な物性を付与できるのが特徴。サーマルボンドはソフト性がある。ニードルパンチは厚手の不織布が生産できる。スパンレースはソフトで、ドレープ性があり、最も織・編み物に近い物性を持つ。

 では、原料となる化合繊短繊維は何が多いのか。最も多いのはポリエステル短繊維。実は日本のポリエステル短繊維の最大用途が不織布になっている。

 続いて使用されるのがポリプロピレン短繊維、そしてレーヨン短繊維。綿や羊毛は量的には少ない。ポリエステル短繊維は例外として、通常、衣料の世界では超マイナーな存在であるポリプロピレン短繊維やレーヨン短繊維がメジャーな存在であり、綿や羊毛がマイナーというのは不織布ならではとも言える。

直接法/生産工程短くコスト安

 一方、直接法と呼ぶのは化合繊長繊維と同じように紡糸して、そのままネットなど上に堆積させてウェッブを作る。そのウェッブを熱接着したり、接着剤用いる、あるいは針や水流で絡ませて製品化する。これが、不織布で急成長を遂げているスパンボンドだ。スパンボンドは短繊維不織布に比べ工程が少なく、生産性が高い。

 原料はポリプロピレン、ポリエステル、ナイロンなどがあり、最も多いポリプロピレンは紙おむつが主力用途で、世界的に拡大が続いている。

 同じく直接法によるもので、米エクソン・ケミカルが商業生産技術を開発し極細繊維不織布がメルトブロー。極細繊維のためソフトであり、フィルター性能など他の不織布にはない特徴があるが、強度が低いため、単独使用は少なく、様々な不織布と複合して使用される。

 強度が低いのは、紡糸と同時にポリマーの融点以上の加熱空気流を噴射するため、糸が引きちぎられるからだ。熱ロールで最終的には不織布になるものの、連続した長繊維で構成するスパンボンドとは比較にならないほど弱い。原料はポリプロピレンが主体。

 このほか、世界で唯一、デュポンが生産するフラッシュ紡糸不織布も直接法になる。高温高圧下で溶剤にポリマーを溶解させ、これを紡糸口金より噴射(フラッシュ)。溶剤が気化する力とポリマーの膨張で、繊維が網状のフィルブリル化しながらシート状になる。他の不織布に比べて不透明で、表面が平滑で、透湿防水性があり、強度も高い。これはポリエチレンを主原料にする。

紙おむつから自動車まで

 このように、不織布にも様々な種類があり、同じ原料でも製法が異なれば物性も違う。用途展開も衣料用から寝装インテリア、フィルター、自動車内装材、自動車部品、工業資材、土木建築、農業・園芸、生活資材、医療用、衛生材料、ワイパーなど実に幅広い。

 もう少し具体的にみれば、紙おむつは不織布の塊であり、自動車のマットも不織布製だ。日常的に使うウェットティシュも不織布なら、電池の中にも不織布が使われる。あまり知られていないが、人工皮革は不織布からできている。

 つもり、不織布という一言で済ますと、不織布は何も分らないままに終わる。

 不織布が繊維産業の中で存在感を高めている今こそ、不織布について、知っておいて損はない。