05年の話題を追う/華開くナノテクノロジー

2005年01月04日 (火曜日)

日本の繊維産業は、伝統的な産業であると同時に世界トップレベルの技術力を誇っている。ただ、近年の中国を中心とするアジア諸国の繊維産業が汎用品および量産型製品などで圧倒的に強くなっている。これに対して日本の繊維産業は、高機能化、高付加価値化製品による商品差別化戦略で生き残りを図っている。ナノテクノロジー(以下ナノテク)の登場は、技術開発にとっては強力な援軍となっている。

ナノテク 産業の国家戦略に

 12月に開催されたジャパンクリエーション2005。その中で開かれたテキスタイルコンテストで、光発色繊維「モルフォテックス」を用いた素材がシルク、メンズアパレルの2部門で受賞した。モルフォテックスは帝人ファイバーがナノテクで開発した構造発色繊維だ。近年、ファイバー製造から加工に至るまで、繊維業界でもナノテクが高機能化や新機能化を実現する手段として、ブームといわれるほどの勢いで開発・製品化が進んでいる。

 ナノテクは10億分の1メートルというナノオーダーで分子・原子を自在にコントロールする超微細技術。原子や分子の配列を制御することで、無限に多様な現象を生み出し、これまでになかった機能や性質を持った材料を実現できる。2000年に当時のクリントン大統領がナノテクを米国の国家プロジェクトにするとして世界の注目を集めた。その後日本でもこれからの産業をリードする技術として、ナノテクがバイオテクノロジーと並ぶ柱として位置づけられた。01年には経済産業省の「ナノテクノロジー・材料技術開発プロジェクト」がスタートした。同省のナノテク関連予算は04年度117億円。同プロジェクトには「高強度繊維開発」グループとして繊維産業から東レ、旭化成、帝人、東洋紡、ユニチカが参加している。

開発から製品化へ

 繊維にとってもナノテクはまったく新しい機能や性質を持った素材を作り出す可能性があるとして期待は大きい。従来の繊維が持っている性質に対してだけでも大きな変化が想像できる。 ファイバー自身をナノオーダーにする「ナノ・ファイバー」は小さな空隙でより微細なフィルター効果を持つ。大きな比表面積で液体や固体の付着量が大きくなるほか、細い繊維を束ねた方が同じ太さの1本の繊維よりしなやかさと強さが格段に大きくなる。

 「ナノ・コンポジット」効果と呼ばれる技術は、ナノ粒子を繊維に付与することで、比表面積が大きくなり、コーティングなどの反応性に富み、高機能化が図れる。また、ミクロンオーダーでは光が乱反射し発色性が低下するが、ナノオーダーでは発色性の低下を抑制でき軽量化と保温性も同時に実現できる。

 繊維産業では中国など外国製品との差別化が今後の日本繊維産業の生きる道として高機能、新機能を持った新しい製品作りにナノテクを用いた開発を各繊維メーカーが競っている。

 東レは02年、ナノオーダーの単糸で構成されたマルチフィラメント状の「ナノファイバー」を実現し、単糸数140万以上からなる「ナイロン・ナノファイバー(トータル44デシテックス)」を開発した。これはナイロン100%の組成ながら、従来のナイロンと比べ2~3倍(綿と同等)の吸湿性を持っている。この技術はナイロン以外でも、ポリエステルなどの汎用ポリマーを用いて製造できる。

 さらに04年10月に織・編み物を構成する単繊維の一本一本にナノオーダーの分子集合体からなる機能材料被膜を作り出すナノスケール加工技術を開発した。「ナノマトリックス」と呼ばれるこの技術は、風合いを損なうことなく機能性のレベルや耐久性を大きく向上させたほか、ある程度の水分の吸着を必要とする制電加工と水分を寄せ付けない撥水加工のような相反する機能の複合化もナノオーダーでの機能材料の配列、分子集合状態を制御することで実現した。

前記したモルフォテックスは帝人ファイバーが、生きた宝石と呼ばれるほど美しいコバルトブルーを発色するモルフォ蝶の発色原理から、ナノテクを用いて97年に開発した光発色繊維。光干渉による発色構造のため光の角度や強さによって、色調が変化する機能で世界初の技術。染料や顔料を使用する必要がなく、染色工程が不要となる。02年に商品化され衣類だけでなく自動車、家電などの各種塗装などにも用いられ、現在は年間約9トンの量産体制に入っている。

こうしたナノテク素材開発は各社で進められ、03年ぐらいから続々と製品として登場している。三菱レイヨンのアセテートとアクリルを融合させた複合指定外繊維「A・H・F」、カネボウ繊維の液晶構造保湿加工「ナノデュウ」、東洋紡のナノ気相制御技術による形態安定加工「ナノプルーフ」。

 また、ユニチカなどが導入したナノ・テックス社の「ナノ・テックス」加工、日清紡のナノサイズ銀加工抗菌防臭「Agフレッシュ」など、03年ぐらいから続々と製品として登場し、小売店頭にもナノテク商品が並び始めている。消費者の関心は高く、市場の反応も良いと聞く。

ナノテクノの可能性は無限

「高強度繊維開発プロジェクト」のテーマは「汎用繊維の強度2倍を2倍以下のコストで」であり、分子量制御技術や溶融構造制御技術を駆使して取り組まれている。メーカー各社も研究開発にさらに力を入れている。

 日本の技術レベルは世界トップレベルにあり、今後とも世界の先頭を走るためには、より一層の技術開発による新素材や新製品の創出が不可欠だ。近い将来、鉄やチタンよりも強く、絹よりもしなやかで、羽毛よりも軽く、自在に色調が変化し、寒くなれば暖かく熱くなれば冷やしてくれる、そんな衣服が出現しているかもしれない。