ポバール/需要旺盛でタイト感続く

2005年05月17日 (火曜日)

問題は原油上昇の転嫁

 水溶性、造膜性、接着性など、数多くの機能を持つポバール。かつては織布工程のサイジング用糊剤を中心とする繊維用途が大きな比重を占めていたが、紙、フィルム、接着剤などの用途開拓が進み、繊維は数多くある用途の一つとなった。

 さらに綿織物産地が海外からの攻勢を受け、縮小するのに伴い、繊維用途への販売数量は徐々に減少。安定もしくは成長を維持していた他の用途に対して、一層存在感を薄める結果となった。

 1999年に大手メーカーのクラレと日本合成化学が合弁でシンガポールに生産拠点を構築。輸出用の一部をシンガポールに振り替えた影響もあって、ここ数年は全体の販売数量も伸び悩んでいたが、04年は大きく盛り返した。

 日本酢ビ・ポバール工業会がまとめた04年のポバール出荷高は21万2802トンで、前年比7%増加した。7%増はここ10年にない高い伸びで、21万トン突破は99年の22万620トン以来、5年ぶり。

 一般産業の景気回復の恩恵を受け、様々な用途で需要が底上げされたほか、経済発展の著しい中国向け輸出が拡大したためとみられる。中国はポバールメーカーの輸出のほか、紙やフィルムなどの製品として輸出されるケースも多く、国内、輸出の両面からポバールの需要を押し上げた。

 今年に入っても、ポバールの旺盛な需要は衰えていない。日本酢ビ・ポバールが昨年、設備のボトムアップを実施し、生産能力を年間5000トン増強したが、タイト感は全く変わっていない。メーカーの関心は数量よりも価格に移っているように見える。

 昨年来の原油価格の上昇に対して、メーカーは売り値に転嫁せざるを得ないとし、得意先に値上げを要求している。原油価格の動向をみながら、昨年に第一次、第二次の値上げを相次いで打ち出した。用途によって、値上げの浸透には開きがあるが、その後の原油価格の上昇と昨年来の値上げ要求の積み残しを含めて、メーカーは5月出荷分から第三次の値上げを打ち出す。

 こうした中で、減少傾向に歯止めが掛からない繊維用途は値上げも通りにくく、メーカーとしての市場の重要性が一段と低下していることは否めない。しかし、海外を含めると、繊維用途への販売は依然多い。また、繊維で得た経験やノウハウを他の用途に生かし、成功しているケースも多く、繊維用途の活性化に向けた取り組みも出ている。

クラレ・ポバール樹脂カンパニー/高機能商品で中国向け拡大

 クラレ・ポバール樹脂カンパニーはポバールのリーディングカンパニーとして、グローバル展開を加速している。日本のほかシンガポール、ドイツで生産・販売拠点を構築。ドイツのクラレ・スペシャリティ・ヨーロッパ(KSE)の稼働開始によって、グループ全体の年産能力は21万4000トンに拡大した。

 この結果、日本、東南アジア、欧州で地域の需要に適した製品を短納期で供給する体制を確立。それぞれの拠点で需要の掘り起こしを図っていくことになるが、同社が今後、もっとも伸びる市場として期待しているのが中国。中国市場の販売は日本とシンガポールからの輸出となるが、中国は世界一のポバール生産国で高関税という厚い障壁が立ちはだかる。

 「中国ではできない高機能、高付加価値の商品」(服部次男ポバール樹脂販売部長)を中国市場開拓の基本方針とする。具体的には塩ビ樹脂、インクジェット用紙向けなどが主力商品となる。

 サイジング用ポバールは建築資材を中心とするエマルジョン・接着剤用途と並ぶ中国メーカーの主力商品で、海外のメーカーが食い込む余地はほとんどない。しかし、同社では中国産ポバールに混合して使うことで、織物の生産性を高める商品を提案し、中国市場に根付かせることに成功している。中国の織布に関する技術書にも同社の商品と混合して使用すると、生産性が上がると紹介されているという。

 国内の繊維用途への販売はクラレトレーディングを通じて行っているが、これはユーザーの要求に応じたきめ細かな開発と生産を強化するのが狙い。繊維用途への販売が減っている中で、服部部長は特定ユーザー向けの配合糊剤は増加していると明かす。こうして得た経験、ノウハウが中国向け商品の開発と販売に結び付いた。

日本酢ビ・ポバール/能力アップで需要増に対応

 日本酢ビ・ポバールの04年のポバール販売高は数量ベースで前年に比べ10%強増加した。昨年のポバールの需要はおう盛で、日本酢ビ・ポバール工業会集計の04年出荷高は前年比7%増となったが、同社の伸びはメーカー平均を上回る。紙、フィルム用途がとくに好調だった。

 同社ではおう盛な需要に対応するため、設備のボトムアップを実施し、生産能力を年間ベースで5000トン増強。2ケタ%の販売数量拡大に結び付けた。

 古市英樹営業部大阪営業グループ課長は需要増の背景には国内景気の回復と経済発展が著しい中国の存在があるとみる。中国はポバール輸出の主力市場となっているだけでなく、紙、フィルム、接着剤などの製品として輸出するケースも多く、ポバールの販売にとっては国内と輸出の両方で大きく貢献した。

 今年に入ってもおう盛な需要は変わらず、古市課長は数量的には今年も好調に推移するとみている。しかし、問題は価格。昨年来の原油価格の高騰によって、ポバールの生産コストは大きく上昇。メーカーはコストアップ吸収のための値上げを打ち出しているが、まだコスト増の一部しか転嫁できていない。

 古市課長は引き続き値上げに取り組むとともに、「Dポリマー」に代表される付加価値商品を拡大することによって、採算の改善を図る考えだ。Dポリマーはポバールに耐水性を付与したものだが、逆に水溶性を強化したタイプの開発も進めている。

 ユニチカ通商を通じて行う繊維用途への販売は減少傾向にあるが、配合糊剤メーカーとの連携を強化し、減少に歯止めを掛ける。また、繊維は輸出では依然主力用途であることから、国内で蓄積したサイジングのノウハウを海外のユーザーの提供するなど、需要の掘り起こしを図る。