商社 ネットワーク経営、現状と課題
1999年07月27日 (火曜日)
二〇〇〇年三月期から導入された連結決算。今年度はその初年度に当たる。大手商社、専門商社各社は「ネットワーク経営」をキーワードに関連事業会社を見直す一方、主要仕入れ・販売取引先との垂直的な連携を視野に入れた取り組みを強化し始めた。「本社は本社、関連会社は関連会社」という半ば他人の関係から、文字通り一心同体の経営への転換を進めると同時に、SCM(サプライチェーン・マネジメント)を意識した事業そのもののネットワーク化がその狙いだ。事業会社の損益に対する本社側の責任を明確にするなど制度面でも手直しが相次ぐ。将来展望のない事業については業態変更や清算を含む大胆な模様替えが実行され、連結初年度入りとともに一体経営に向かって歩み始めた。
「グループ経営の強化」は九九年度の各社共通の経営課題だ。
伊藤忠商事は本社・関連会社、関連会社間の重複業務の見直しを昨年来進め、伊藤忠アパレルの肌着商権をロイネへ移管する一方、レッグ・服飾雑貨の二部門を四月一日付でミナミナイロン(同日付で「(株)レヴアル」に社名変更)に譲渡するとともに、布帛製品を得意とする伊藤忠モードパルと本体ニット部門との連携によるSPA(製造小売り)対応業務の強化など、一連の事業シフトを一巡させた。
また、丸紅も丸紅アパレルと丸紅テックスプラニングを統合し「丸紅ファッションリンク」を、丸紅繊維洋品と丸紅繊維資材を統合して「丸紅インテックス」を同日付けでスタートさせた。
とくに丸紅ファッションリンクは「将来的には本社アパレル本部が自ら企画提案した商内を、新会社は顧客アパレルのOEMの仕事を手がける役割分担を明確にしたい」(松井正男専務)考えで統合設立されたもの。
これまで大手商社は子会社に対して「関連会社は自活の道を」として本社と一線を画すのが一般的だった。しかし、連結損益が重視される中で「金も出せば口も出す」方向に大きく変化してきた。
伊藤忠繊維カンパニーは九八年度から関連会社の決算責任を部門から営業部主管に変更し、部長の権限と責任を強化し、四月一日付の「事業部」制への移行で一段と事業部長の権限を強めた。「スピード重視の経営」(住江漠副社長)を権限委譲で示している。
連結損益が部門決算の評価基準となることで、「関連会社は関連会社」といった責任不在の体制から商社は決別し始めた。また、関連会社も「いざとなれば親会社が助けてくれる」との甘えも過去のものになりつつある。「不採算、将来展望のない事業はやめる」が商社の合言葉。厳しい経営環境乗り切りに一体経営での重みが増す。
こうしたグループ総合力発揮に向けて、関係会社の業態変更もみられる。「アパレル事業会社を企画提案・生産管理会社へ」と大胆な業態変更を打ち出したのが住金物産だ。
全額出資の子会社で婦人服製造卸のリズバーンを「ファッションネット」に社名変更すると同時に、アパレル企画・生産管理会社へ一気に業態を変更した。
住金物産はSPA対応を強化する中で、素材調達・生産管理などのSPAの後方支援業務を充実させてきた。「子会社とはいえアパレル企業と競合するより、取組先アパレルのモノ作りを支援する方が全社的な利益につながる」(幸田明治副社長)との判断から業態変更を決めた。
同様に三菱商事は関連子会社でアパレル製造卸のボォグを販売会社として業態変更、過大な商品リスクを取り除き、販売代行会社として再出発させた。
ニチメンも関連事業会社の見直しに入っている。今年十月をめどに非衣料国内事業会社三社の統廃合に乗り出す一方、アパレル商社の「ニチメンプルミエ」(大阪市)と香港の繊維現地法人「ニチメンオリエントウエア」(略称NOW)を〝アパレル商社〟のくくりで事実上統合する。本体と合わせ「商機能」を中心とした事業形態に集約化することが狙いだ。
ニチメンプルミエとNOWは五月から統合準備を進めているが、二〇〇〇年四月をめどに司令塔の事実上の一本化する。プルミエはニチメン衣料部門から商権、人員の移管を受けてアパレル商社として収益体制確立に向かっている。
一方、NOWも香港を拠点に上海事務所を設けるなど中国・東南アジアでのモノ作り、対日欧米輸出で堅実な業績を確保。この両社を統合することで、「アパレルにおける日本、アジア、欧米をネットワークした専門商社を確立する」(半林亨副社長)のが狙い。
また、ニチメンリビング、ニチメン繊維資材、ニチメン繊維工業の三社の合併は、繊維原料、資材、寝装・リビングなど非アパレル分野の専門商社として集約するもの。
この統合再編で、カジュアルアパレルとして好業績のニチメンインフィニティ、ユニークなテキスタイル販売で伸長するニチメンファッション、再建途上の第一紡績と合わせ、主力五社の関連事業会社と繊維本部で繊維グループの一体経営を目指す。
また、日商岩井は四月一日付で、大阪本社の生活資材部を解消、その寝装・資材・インテリアの各商権を日商岩井繊維原料に人員ごと移管。さらに大阪の衣料第一部、同第二部を統合して「大阪繊維部」とし、東京・名古屋両繊維部と合わせ三部体制に改編するなど本部と関係事業会社の役割分担を一段と明確にした。
こうした組織再編とともに、取引先との関係強化に動いている。イタリアのジーンズブランド「ディーゼル」を独占輸入販売するパンドラ(大阪市中央区)に資本参加したのがその一つ。
さらに西友、仏ラ シティ社とともに三社が共同展開するレディースSPAブランド「ラ シティ」のモノ作りへの参画がそれだ。日本一号店がこのほど、西友の新業態店「リヴィン錦糸町店」で好調にスタートした。
二号店は八月オープンのSC「ヴィーナス フォート」(東京臨海副都心)に百坪の大型店。来年初頭をめどに、都内に旗艦店も開設する予定だ。二〇〇三年には五十店・売上高五十億円を目指す。
一方、十月一日付で「兼松繊維」(仮称)として兼松から分離独立予定の兼松繊維部門は、(1)特殊品を含めた合繊原料・織物の輸出入と三国展開(2)アパレルとの連係プレーによる素材提案と供給(3)内外生産を含めた製品モノ作り(4)ブランド事業での小売りへの接近やSCM(サプライチェーン・マネジメント)の構築-を主に収益体制を構築する。
内外のネットワークを意識し、国内・海外ともに機能分社的な関連事業会社はそのまま新会社が引き継ぎ、内外のオペレーション機能を維持する考えだ。
繊維専門商社でもネットワーク経営の意識が強まっている。
蝶理は新経営指針「CAP2000」での連結経営強化に向けてリテール関連の事業会社、統括会社など四社をこのほど設立、小売り・アパレル事業の管理機能を強化した。統括会社「蝶理アパレルデポー」は「ケンゾー パリ」のベネカ、「ザノリーニ」のフェラーラコーポレーション、量販店向け製品供給のジジョン、婦人カジュアルアパレルのシーエスコーポレーションと、アパレル事業開発部を分社したリーズコーポレーションの五社を統括する形だ。
その一方で、グローバルアパレル事業推進などの繊維貿易強化、世界戦略商材委員会の設置によるテキスタイルの拡大への動きを強める。とくにアパレル強化では、「アパレル事業基盤整備プロジェクト」による生産・物流・情報システムの整備を絡めながらトータルコストの削減を徹底する方針だ。
ヤギは最終年度を迎えた三ヵ年経営計画「ハーベスト106」で、(1)不採算商権の見直しを進めると同時に、(2)販売促進検討委員会による新商品開発と商材の再構築(3)素材展示会での全社横断的な商品提案と販売強化(4)利益率改善(5)人員の見直し-に取り組んできた。
十一月から始まる新年度に向けて新中期計画を現在練っているが、仕入れ・販売のネットワーク化を意識した商権・供給ソースの見直しが一巡し、攻めに重点を置いた計画になる。
また、新興産業は海外・国内での素材調達力と内外での縫製生産力を組み合わせ、その組織力を武器に製品対応していく方向へ切り替えた。昨年末から既存商内の見直しに着手し、原則的に商内を同社の意志に共鳴する顧客に絞り込みつつある。
織物・ニット生地の調達では、国内のほかインドネシア、中国などを想定、縫製生産地もインドネシア、中国、ベトナムなどで、布帛・ニットシャツ、カジュアルボトムスなど得意商品ごとにマップを描いていく。
他方、田村駒は中堅婦人ボトムメーカーの(株)東京ヤマモトに昨年十月一日付で出資するとともに社長を派遣、全面的に経営に参画した。婦人服アパレルを事実上子会社化するのは初めてだが、量販店向け婦人ボトムメーカーの主力取引先として育成、本体業務との相乗効果が表われてきた。
また、帝人商事はテキスタイル輸出展開で、ファブリケーション機能に加え生産工程情報などの提供で差別化、欧米、中東向け輸出を強化してきた。客先に向けてゾーン別提案を強める一方、産地では撚糸やエア加工などの糸からの差別化や染色整理段階での高付加価値化を進め、ファブリケーション機能の拡充に動いている。