ニューテクノロジー/温度調節、近未来型の繊維

2005年07月01日 (金曜日)

 昨年から後加工や繊維練り込み素材などで注目を集めるのが“温度調節機能繊維”だ。衣服内温度をコントロールすることで快適さを追求しようというコンセプトで開発したもので、インナー、肌着を中心に広がっている。基本的な仕組みは特殊ポリマーなどの相変化物質のある特定の温度での凝固、融解に伴う潜熱を利用する。ただ誤解していけないのは、温度を自在に調整して常に快適さを保つ機能はないということ。急激な温度変化を緩和することで、暑さ、寒さの感覚を緩やかにするのがこの機能加工の目的だ。「クールビズ」運動が進む中、どこまで認知度が広がるか関心が高い。

ダイワボウ「サーモカプセル」/快適に温度コントロール

 ダイワボウの「サーモカプセル」は、相変化(固体から液体さらに気化する変化のこと)時の吸発熱を利用した後加工素材だ。これまで相変化を利用した素材は販売されてきたが、素材が限定されるなどの多くの問題点を抱えていた。しかし、相変化によって放熱、吸熱を繰り返す特殊素材のマイクロカプセル化が成功したことで、純綿や綿混生地に付与することが可能になった。

 暑くなると内容物が溶けて液体になり(この時に熱量を吸収する)、寒くなると固まる(この時に放熱する)特殊なマイクロカプセルを付与することで、生地に吸熱、放熱性を与えた。肌着、シャツ、ふとん地素材として今期春夏向けから発売する。

オーミケンシ「97・6・」/快適温感―心地よい温度に

 他社が後加工での素材に対し、オーミケンシの「97・6・(華氏キュウ・ナナ・ロク)」は、唯一(6月現在)の練り込みレーヨン素材だ。後加工素材と違って、いろいろな繊維素材と交織や交編が可能となる。

 97・6・には、ある温度で固体↓液体↓固体…状態を繰り返す相変化(固体から液体さらに気化する変化のこと)を伴なう物質PCM(Phase Change Material)を練り込んだ。このPCMの持つ性質を生かして、繊維周囲の温度を調節することで、快適な環境を得ることができる。

 実際、熱緩衝性測定データ(環境温度を変化させた時の試験布内部の温度を測定)ではその効果がよく分かる。

 PCMが反応する温度設定を変えれば、季節を問わず温度対応が可能。耐洗濯性に優れ、ホルマリンなどの有害物質を含まず安全性は高い。

 ちなみに97・6・とは36・4℃で標準の体温を示す。・(ファーレンハイト)は英米で日常的に使われる温度の単位でドイツの物理学者ファーレンハイトが提唱したことに由来する。華氏という表記はファーレンハイトの中国語音訳「華倫海」から取ったものだ。

第一紡績「サーモブレイン」/得意のインナー分野に展開

 第一紡績の「サーモブレイン」は、特殊ポリマーを包含するマイクロカプセルを生地に付着させた温度調節加工だ。

 生地上に均一に付着したマイクロカプセル化したPCM(相変化物質)と呼ばれる特殊ポリマーの作用により、周辺温度の上昇、下降に際し、生地の温度上昇あるいは下降を抑える作用を発揮する。

 つまり、衣服内の温度が急激に上がった場合は、熱を奪うことで温度上昇を抑え、衣服内温度が下がったときは、熱を放出して温度下降を抑える。

 季節に合わせて、温度タイプ(夏、冬、オールシーズンの3種類)を選択することが可能。ノンホルマリン対応で安全性が高く、肌着などの用途に適した加工だ。

今後、注目を集めそうな機能加工素材

 年々、増える機能加工素材。今後、どんな機能加工が流行するだろうか。最近の流行の商品と比較しながら、繊維での機能加工を見ていきたい。

 美容ではコエンザイムQ10が何かと話題になっているが、実はアミノ酸も引っ張りだこだ。味の素が今年2月、アミノ酸補給により、肌の水分を保つ力やバリア能向上に有効であることを発見。天然保湿成分の半分以上を占めるアミノ酸を肌に塗ることで、アミノ酸が角層に浸透し、肌の保湿力やバリア能を保つことが可能だということを発表した。アミノ酸に対する美容効果への期待も強まる傾向にある。

 繊維への応用は現状、東海染工の「アミノール」や小松精練の「アミノファイン」、ダイワボウの「アミノモイスト」、富士紡の日本酒エキス加工ぐらいしかなく、今後、ほかの企業もアミノ酸を使った加工を打ち出す可能性がある。

 同じアミノ基でもキチン・キトサンの場合は、機能加工素材として23社が29ブランド(2月末現在)で打ち出し、主流となっている。オーミケンシの「クラビオン」や、富士紡の「キトポリィ」、日清紡の「モイスキン」などがキチンやキトサンの成分を利用した加工だ。

 その中でも、ユニチカテキスタイルは今年、カニの甲羅などに含まれる天然成分キトサンをそのまま繊維化した新素材「キトケア」を開発した。体への親和性が高く安全性の高いキトサンをそのまま繊維にするため、肌に優しいだけでなく、高吸湿性、耐洗濯性に優れた抗菌防臭性を発揮する。抗菌試験結果(キトサン3%綿混、40/1フライス生地)では初期で静菌活性値4・2以上、洗濯100回でも同3・4以上と非常に高い数値を示す。

 直接肌に触れる素材は、極力人の肌に近いものが当然良い。そのような考えから生体高分子も注目を集める。最初に開発に成功したのがダイワボウだ。現在「レイポリー」商標で展開する。皮膚に似た構造を持つリン脂質ポリマーを付与。安全性が高く、洗剤に使われる界面活性剤などの刺激物質から肌を守ることもできる。

 昨年、日本毛織もリン脂質ポリマーをウールに加工した「ビキュート」を開発。ウールはもともと、肌と同じアミノ酸からなり、肌に最も近い距離と言われる。スキンケア成分リピジュアをウール繊維に完全固着。ウールTシャツなどのアンダーウエアとセーターの中間的用途や寝装向けに訴求する。今後も期待の機能加工として注目を集めそうだ。