ナノテク特集/進化するナノテク加工素材
2005年07月22日 (金曜日)
ナノってなんて素敵ナノ!?
米国のコンサルティング会社ルックス・リサーチによると、2014年におけるナノテクノロジーを使った製品の売上高は全世界で2兆6000億ドル(約286兆円)になるという。これは製造業全体の売上高の15%に相当する額だ。この売上高はITや電気通信業界を合わせた規模に匹敵、バイオテクノロジーに比べ10倍以上大きい規模となる。一方、日本では日本経済団体連合会が02年にまとめた報告によると2010年のナノテク産業規模は27兆円に達すると試算。ナノといえば繊維業界にとって昨年に比べ、やや落ち着いた感があるものの、逆にそれだけ認知度が高まったと言えるだろう。今回、紡績各社のナノテク加工素材を紹介する。
ナノテクとは何か?
ナノテクノロジーの“ナノ”とは一体どういう単位だろうか。1ナ ノメートルは1メートルの10億分の1の単位を指す。もっと分かりやすく言えば、地球の直径を1メートルとすると、1円玉の大きさが1ナ ノメートルとなる。つまり、それほど“小さい”わけだ。
紡績各社の場合、ある物質をナノサイズにして繊維に付着させる、またはナノレベルの繊維の隙間に物質を浸透させるなどの技術をナノテク加工素材群として打ち出す。例えば、日清紡の「Ag Fresh(エージーフレッシュ)」は、ナノサイズの銀粒子を繊維内部にまで浸透させた加工素材だ。その銀の粒子は当然、肉眼で見ることはできない。微粉末にしただけであれば、水に混ぜた時、時間が経つにつれ、銀の粒子が底に沈殿するが、日清紡の技術でナノサイズ化した銀の粒子であれば沈殿することはない。
このように粒子をナノサイズ化することは、粒子を綿などセルロース繊維の内部に浸透させることができ、洗濯耐久性などが大幅に向上するなど有用的だ。また加工時のバインダー(接着剤)が不要となり、風合いが硬くならない、ほかの加工と組み合わせることができる――などの例もある。
どちらかといえばナノテク加工素材のシリーズ化は綿紡績が先行していたが、昨年8月には日本毛織が「ナノミラクル」シリーズで、今年7月には東亜紡織が「ナノサプライ」シリーズとしてナノテク加工素材群を打ち出した。日本毛織の磯崎幸士取締役技術開発部長兼技術研究所長は「ウール本来の良さを引き出すためにはナノテクの技術をベースにした加工が最適」と指摘し、同社では機能加工をナノテクに一本化する考えだ。
ナノテクは大きな可能性を広げる技術と言っても過言ではない。ナノテク加工素材群を打ち出す各社それぞれ商品化した加工も含め研究を続けており、今後新たな機能を持ったナノテク加工が登場するのも時間の問題だ。
新規加工投入などで刷新/ユニチカ「ナノ・テックス」
ユニチカグループは「ナノ・テックス」加工シリーズのブランドを今秋冬向けから刷新する。これは米国ナノ・テックス社の意向であり、風合い加工の「ナノ・タッチ」が「コットン・タッチ」、吸水・速乾加工「ナノ・ドライ」が「クーリスト・コンフォート」、撥水・撥油加工「ナノ・ペル」と防汚加工「ナノ・ケア」が「レジスト・スピルス」に名称を変更する。
また、同シリーズに耐久性制電加工「レジスト・スタック」を新たに投入した。一部日本への薬剤輸入が禁止されている加工を除けば、ほぼ全般のナノ・テックス社の加工をユニチカGがカバーすることになる。
販売面では「海外ではナノ・テックスの知名度が高い」ことから、欧米向けの輸出にも力を入れる。とくにユニチカファイバーの場合、販売量の2割近くが輸出。特殊異型断面ポリエステル「ルミエース」と吸放湿性を持ったナイロンとの交編素材「ハイグラLU」や、極細ポリエステル使いの高密度織物「タフレックス」シリーズなど、差別化素材と組み合わせた販売が定番化してきた。
アイテムではスポーツ衣料、婦人服などに加え、靴やカバンなどの非衣料分野でも広がりを見せる。今後、ナノテク素材の存在が消費者にも少しずつ認知されつつあることから、実用衣料でも、ボリュームゾーンへの販売量の拡大を期待。今期500万メートル(加工反換算)の販売量を目指す。
新たなナノテク加工も登場/シキボウ「ナノスタイル」
シキボウの「ナノスタイル」シリーズに、今年新たに開発したタバコ臭防止加工「ニオネード」が加わった。約2000種類あると言われるタバコのにおい成分を“防止”して消臭するという発想で、薬剤の微妙なコントロールで開発に成功した。同シリーズ内の「スーパーアニエール9」は中高年の加齢臭成分ノネナールにも効果がある優れた加工だ。
ナノスタイルシリーズの中でも今年の「クールビズ」効果で引き合いが多くなってきたのが、吸水速乾加工の「テンギールドライ」と「ルームドライ・早乾」だ。テンギールドライに抗菌・消臭機能を持たせたのがルームドライ早乾となる。これらのナノテク吸水速乾加工と特殊構造織物「アゼック」とを組み合わせることで、より効果的なクールビズ対応素材となる。
最近、人気なのが撥水・撥油加工「テクノス・ガード」や防汚SR加工「デセール」だ。テクノス・ガードの場合、従来品(洗濯前)は撥水剤自身が生地に平面的に被膜を形成するが、改良品は、分子量の違う撥水剤を組み合わせることで、より被膜形成時の立体障害を解消。さらに、より一層高い密度とお互いに支え合える形で被膜を形成することによって耐久性を向上させた。ソフトな風合いも維持する。
デセールは撥油性がありながらも親水性を高めた素材。SR加工とは汚れが洗濯で落ちやすく、洗濯時の汚れの再付着を防ぐ加工だ。もともと「イージクリン」という撥水性がないタイプのナノ加工素材を進化させたものだ。撥水性がありながら親水性を持つことで、皮脂汚れなどが洗濯時で取れやすい。
いずれの加工も常に進化を見据え、研究を継続。最適な加工素材を追求する考えだ。
800万メートルの販売量を目指す/日清紡「ナノサイエンス」
日清紡の「ナノサイエンス」シリーズは、今年800万メートル以上の販売量を目指す。前年は同シリーズの中でも銀粒子を繊維内部にまで浸透させた抗菌防臭加工「エージーフレッシュ」や、吸水性を持った防汚加工「DCIII(デュアルクリーン)」などを中心に500万メートル以上の販売量があった。
同社が得意とする形態安定加工もナノサイエンスシリーズの一角を占める。綿の形態安定加工は、綿セルロースの非結晶領域のOH基を架橋することで性能を発現できる。綿セルロース中の無数のOH基の架橋を自由自在にコントロールできれば、形態安定性も同様にコントロールできるはずだと考え、研究を続けてきた。しかし架橋結合の偏在化は強度低下をまねくので、できるだけ偏在化させずに効率よく架橋させる必要がある。
同シリーズの「ノンケア」「SSPÅ」は極低ホルムアルデヒドの樹脂を新たに調整、従来からの液体アンモニア加工を併用しつつ、できるだけ偏在化させずに効率よく樹脂を架橋させるように工夫したものだ。これにより従来では到底達成できなかった純綿でW&W性3・5級超を実現することができた。
純綿でここまでW&W性が良くなると逆にパッカリングが目立つため、特殊な縫製技術を駆使することでパッカリングを防止し、トータルの性能でノーアイロンシャツを実現したのがノンケアで、生地だけの場合がSSPÅだ。ノンケアシャツは販売が好調で今年150万枚の販売量を計画する。
美容ブームが追い風に/ダイワボウ「ナノワールド」
ダイワボウの「ナノワールド」は、コエンザイムQ10を付与した「ビタキューテン」、リン脂質ポリマーを付与した「レイポリー」、花粉付着防止加工「ヒノガード」の3種類で打ち出す。とくに最近の美容・健康ブームで注目を集める“元気のもと”であるコエンザイム人気を受け、ビタキューテンは「引っ張りだこの状態」だという。
コエンザイムとは脂溶性のビタミン物質で、人のミトコンドリアに最も多く存在。肝臓や細胞内で作られ、人間のエネルギーを生み出す補酵素で、心臓や肝臓の働きを助ける。他の栄養サプリメントビタミン、ミネラルなどと共に必要不可欠な栄養素として急速に注目されているのもそのためだ。
また強い抗酸化力があり、疲労回復効果やスタミナ不足への対応、美容にも効果的だと言われ、薬局ではコエンザイムQ10を使った化粧品の専門コーナーができるなど、その人気振りがうかがえる。ダイワボウではコエンザイムQ10を52ナ ノメートルまで微細化するナノテクを応用することで加工に成功。ビタミンCとともに繊維に加工したのがビタキューテンだ。
レイポリーは繊維業界でも初めてリン脂質ポリマーを付与した加工だ。リン脂質ポリマーは皮膚に似た構造を持つ物質で、繊維そのものが素肌と類似するため、衣服が“第2の皮膚”のようになる。安全であり、洗剤に使われる界面活性剤などの刺激物質から肌を守ることも可能。合繊との混紡、交織生地を基布としたレイポリーの場合、帯電防止性や再汚染防止性、保湿・給水性を付与するなど、細かい要望に応じた展開もできる。
ウール本来の機能を高める/日本毛織「ナノミラクル」
ウール自体、撥水性がありながら吸水性に優れるなど、いろいろな機能性を持った天然素材だ。その「ウール本来の特質をさらに引き出した」のが、日本毛織のナノテク加工素材群「ナノミラクル」だ。ナノミラクルで展開する加工は現在10種類。4月、新たに「V―CAT」を使った消臭抗菌加工と、花粉の付着防止・脱落促進加工「ポランブロック」を新たに投入した。
V―CATは豊田中央研究所が開発した可視光応答型光触媒(窒素ドープ酸化チタン)で、太陽光だけでなく、室内光でも高い消臭性を発揮するのが特徴(下表参照)。新たに防汚機能も付与したものも発売する。
ポランブロックは積水化学工業の抗アレルゲン加工剤「アレルバスター」(高機能フェノール系ポリマー)を使用し、アレルゲン抑制機能を付与した高機能複合加工素材。水性帯電防止加工や繊維を薄膜でカバーし凹凸を滑らかにすることで、花粉の脱落を容易にした。
ほかにも多彩なナノテク機能加工もそろえる。例えばウールはもともと、肌と同じアミノ酸からなり、肌に最も近い距離であることに着目し、開発した「ビキュート」は、スキンケア成分リピジュアをウール繊維に完全固着。リピジュアとは生体細胞膜に近いリン脂質ポリマーで、肌の潤いを保ち、外的刺激から肌を守る効果もあり、医療、化粧品分野で多く使用されている成分でもある。
「ウェルウオーム」はナノ技術加工により、ウール繊維の一部を操作し、親水性反応化合物を反応させることで、吸湿発熱特性をさらに高めた。今後、機能加工はナノテクによるものに一本化し、ナノミラクルシリーズも拡大する方針だ。
ナノテクでプラス1の発想/東亜紡織「ナノサプライ」
東亜紡織は今月スクールユニフォームの素材展で従来から販売していたナノ・テックス社の撥水・撥油加工「ナノ・ペル」に加え、新たに銅イオン抗菌消臭素材「まるTiミラ」や防シワ・ストレッチ素材「ナノアクティブ」などをそろえ、「ナノサプライ」シリーズとして打ち出した。コンセプトは「プラス1の発想」。
まるTiミラはウールに銅イオンをキレート結合(重金属とNH2基の結合)させた特殊繊維。黄色ブドウ球菌などに対する抗菌性や、菌の繁殖を防ぐ防臭性、アンモニアや硫化水素などの悪臭に対する消臭効果、洗濯耐久性など様々な機能を持つ多機能ウールだ。もちろんSEKマークにも対応する。
人間の体重の約60%が体液、すなわち水であることに注目し、開発したのが「ヒーリングゼオ」だ。ウールに天然鉱石であるゼオライトの粒子を表面に検証させることで、天然鉱石から発生する光電子エネルギーを繊維から放射、この放射によって人体の水(体液)クラスターを小さくし、血流をスムーズに流し、血流量を高める動きを期待する。
ナノアクティブは防シワ性(経緯がウール50%・ポリエステル50%素材の場合)とも従来素材より1・2倍ほど機能性を高め、緯ストレッチも1・3倍ほど伸張率を高めた。
ほかにもファインセラミックス加工による遠赤外線保温素材は、セラミックスを樹脂で接着した従来タイプと異なり、風合いがソフトで表面層に均一に結晶ができるため高い保温性能を実現した。トルマリンを付与したマイナスイオン加工「ヒールマックス」も打ち出し、ユニフォームだけでなくメンズスーツ素材などにも拡販する。