素材開発の現場から・紡績編／最新のモノ作りを垣間見る
2005年07月25日 （月曜日）
今年、紡績の開発面でのキーワードは何だろうか。昨年は“ナノ”が一つのキーワードであれば、今年は撥水・撥油であろうか。もちろん従来どおりの撥水・撥油ではない。ある程度の吸湿性や放湿性などを持ちながらも撥水性があるなどの、つい数年までは考えられなかった機能繊維の開発がこのところ進んでいる。また、光触媒関連素材も紡績各社が相次いで打ち出す機能加工の一つ。原料面では昨年から引き続き“竹”は竹でもそのものの繊維を使った素材開発がトレンドになりつつある。欧州へ日本の素材をアピールするために一つのきっかけになる可能性もある。
１月／シキボウ
＜シキボウ「ニオネード」／タバコ防臭加工を開発＞
シキボウはタバコ臭に対応した素材開発に取り組み、ようやく今年、商品化したのがタバコ防臭加工「ニオネード」だ。今までのタバコ臭対応の加工は消臭を前面に押し出すもので、タバコの臭気の主成分を重点的に消臭できても、それ以外の臭気成分が残り、結果的に鼻（官能）で効果を実感できないケースが多かった。
そこで「消臭だけではタバコ臭に対応できない」と開発の方向性を転換。仕組みは、ナノテクで繊維に皮膜を作ることで防臭効果を持たせるとともに、生地の表面に付着した臭気成分も分解し消臭する加工の開発に成功した。
独自配合の消臭剤を採用することで、主成分だけでなく、ほかの成分も分解するという汎用性も付与。繊維そのものに皮膜を作ることから、風合いはほとんど変わらず、洗濯耐久性がある。「ナノスタイル」シリーズに組み込み、初年度に１０万メートル５０００万円の売上高を目指す。
２月／日東紡
＜日東紡「ＰＮ２２２Ｗ」／スーパーウール用芯地開発＞
日東紡は、清原（大阪市中央区）を発売元とする婦人服用芯地「プリモア」に、業界初のポリエステル・ナイロン交織品ＰＮ２２２Ｗを加えた。「欧州で販売されている服と同じ生地で作っても、似たような美しい“カオ”にならない」といった悩みを解消すべく開発した商品だ。
同じ生地を使っても欧州と日本で製品のカオが異なるのは、降水量の差に起因する。日本のように降水量の多い地域では、生地が湿気を吸って伸びがち。公定水分率が高いウール、中でも細いスーパーウール使いの生地はその傾向が顕著
だ。ＰＮ２２２Ｗは、それを抑えるためにナイロンよりも公定水分率が低いポリエステルを経糸として採用。緯糸にナイロンを使うことで、表地との連動性も確保した。売り文句は「スーパーウール対応ハイテク芯地」だ。
３月／ユニチカテキスタイル
＜ユニチカテキスタイル「キトケア」／キトサンをそのまま繊維化＞
ユニチカテキスタイルは、カニの甲羅などに含まれる天然成分“キトサン”をそのまま繊維化した新素材「キトケア」を開発した。キトケアはユニチカテキスタイルが、ある企業と共同開発でカニの甲羅から繊維化に成功。体への親和性が高く安全性の高いキトサンをそのまま繊維にするため、肌に優しいだけでなく、高吸湿性、耐洗濯性に優れた抗菌防臭性を発揮する。
抗菌試験結果（キトサン３％綿混、４０／１フライス生地）では初期で静菌活性値４・２以上、洗濯１００回でも同３・４以上と非常に高い数値を示す。綿だけでなく、ウールやアクリルなど他素材との組み合わせも自由で、様々な機能を持った素材展開が可能だ。
４月／日本毛織、富士紡、
＜日本毛織「クールツイスト」／軽量涼感素材を開発＞
日本毛織は、軽量涼感素材「クールツイスト」、可視光応答型光触媒の「Ｖ―ＣＡＴ」使用の消臭抗菌加工、花粉対策加工「ポランブロック」を開発した。
クールツイストはウールスパン糸にセラミックを練り込んだ高機能フィラメント糸をカバリングし、さらに追撚する２段撚糸法「トルネードツイスト」などの紡績技術と織物設計技術を組み合わせた素材。従来の盛夏織物と比較した場合、１５０％の通気性で、熱遮へい性も備えマイナス４℃の涼感を実現した。ＵＶケア効果にも優れる。
Ｖ―ＣＡＴ使用の消臭抗菌加工とポランブロックはナノテクノロジー加工群「ナノミラクル」シリーズにも組み込む。Ｖ―ＣＡＴは豊田中央研究所が開発した可視光応答型光触媒（窒素ドープ酸化チタン）で、太陽光だけでなく、室内光でも高い消臭抗菌性を発揮する。
ポランブロックは花粉の付着防止加工、脱落促進加工に、積水化学工業の抗アレルゲン加工剤「アレルバスター」（高機能フェノール系ポリマー）を使用しアレルゲン（ダニや花粉など）抑制機能を付与した複合加工。花粉リリース試験では、脱落率９０％以上と高い数値を示し、洗濯耐久性も持続する。
＜富士紡「清潔着族」／清潔機能加工群ブランド化＞
富士紡は、清潔機能加工シリーズとして高機能・高感性対応のコンセプトブランド「清潔着族」を打ち出した。これは肌に近い部分への提案を意識した４つの撥水や撥油、防汚などの加工を統合しブランド化したもの。今まで技術的に難しかった薄地などへの加工にも対応することで一般衣料全般への幅広い展開を狙う。
フィットンウイットは米国デュポン社のフッ素樹脂を使って生地表面に極薄撥水撥油加工を施し、片面は撥水撥油、もう片面は吸水を実現したダブルフェース加工。撥水性を持ちながら通気性も確保した。防汚加工の「アドバンス テフロン」は、繊維の周りに分子レベルのバリヤーを形成するフッ素系加工剤を使用し、優れたＳＲ性（防汚性）と撥水撥油性を兼ね備えたテフロン加工。汚れが付着した場合でも洗濯水となじむ親水性を実現することで汚れを落ちやすくした。
これまで販売してきたディスノーティスは汗ジミ防止加工、ツインセットは裏で撥水、表で吸汗・発散性を持たせた着心地を重視した加工でこれらも清潔着族群に追加。今秋物向けからスポーツアパレルを中心に百貨店、専門店で展開を予定する。
＜ダイワボウ「ゲルリリーフ」／ＶＯＣ吸着シートを開発＞
ダイワボウは、シックハウス症候群の原因物質といわれるホルムアルデヒド・トルエンなどの揮発性有機化合物（ＶＯＣ）を吸着するシート「ゲルリリーフ」を開発した。不織布シート、ハニカムシートなどの形状で住宅やオフィス内装材、空調フィルターなどの用途に発売する。
ゲルリリーフではＶＯＣ吸着剤が全く覆われることなく、繊維表面に固着。画期的な吸着性能が得られ、トルエン・ホルムアルデヒドだけでなく、今まで吸着の難しかったアセトアルデヒドも吸着することができる。夏の車内のような高温下でも常温時同様の吸着性能を発揮し、一度吸着したガスを再放出することはない。ＶＯＣ成分以外に生活環境全般にわたる、幅広いにおい成分に対しても優れた消臭性能がある。不織布シート形状にしたことで、交換の容易性、設置場所の自由性も実現した。
５月／クラボウ綿合繊事業部、ユニチカテキスタイル
＜クラボウ綿合繊事業部「竹の衣」／竹を微粉末化し繊維に付与＞
クラボウ綿合繊事業部は、徳島県阿南市産の孟宗竹を微粉化し、生地に特殊技術で付与させた加工素材「竹の衣」を開発した。綿１００％素材を中心にポリエステル混素材などに加工でき、寝装品、家庭用品、紳士、婦人服地として６月から発売に乗り出している。
竹に含まれる数多くの有効成分の中でもポリフェノールに抗酸化作用や抗菌作用があると言われる。孟宗竹をそのまま微粉化、捺染の形式で加工、天然の抗菌性を持たせた。寝装品ではシーツ、カバー、パジャマ、ふとん側地など、家庭用品ではキッチン、リビング、バス、トイレタリーなど、紳士・婦人衣料品ではタウン・カジュアルウエアに提案。年間売上高（生地ベース）で初年度１億円、３年後３億円を目指す。
＜ユニチカテキスタイル「エバレッシュ」／耐熱性の防汚加工を開発＞
ユニチカテキスタイルは、次世代型の新防汚加工素材「ＥＶＥＲＥＳＨ（エバレッシュ）」を開発した。同加工は工業洗濯にも十分対応できる耐熱性・耐久性に優れた防汚性能を生かし、ユニフォームをはじめ、スポーツやカジュアルなどの一般衣料まで幅広く展開する。
エバレッシュは、ポリエステル繊維に固着する親水性の高い防汚性樹脂の分子構造の末端に反応基を付
け、グラフト重合する“連結基”を導入。防汚性樹脂同士を結合させることで、洗濯時に基布から防汚剤が脱落するのを最小限にとどめ、防汚性能の耐久性を高めた。また、オートクレーブなど加熱滅菌処理にも強いため、医療や食品分野のユニフォームにも最適だという。
通常の防汚加工は中国との競合が厳しさを増す中、日本でしかできないエバレッシュにより同社の優位性を確保、当面の加工は大阪染工で行う。今後、エバレッシュの基礎である、ポリエステルを親水化し耐久性を持たせる技術をベースに、吸水速乾性や制電性の新規開発を進める。
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６月／クラボウ羊毛事業部、クラボウ綿合繊事業部
＜クラボウ羊毛事業部「ベンベルグ」・ウール混／スーツ地の涼感素材を開発＞
クラボウ羊毛事業部は、旭化成せんいと共同でウールとキュプラ繊維「ベンベルグ」の混紡糸の開発に成功した。これまでベンベルグとウールの混紡糸はネップなどの糸欠点が起こりやすく紡績が難しかった。クラボウの複合紡績技術を駆使することで開発に成功した。
接触冷感がありながら吸放湿性に優れた新清涼素材として、青山商事がスーツ地に採用し、全国の「洋服の青山」で「ファリアーニ」ブランドとして６万９００円で販売中。レディース、織物にも糸、生地売りで拡販を進める。とくに「接触冷感」「ムレにくい」という清涼感を持つことから、ジャージ向けへの販売を強める。
＜クラボウ綿合繊事業部「クラマス」／多軸補強用繊維基材を開発＞
クラボウ綿合繊事業部は、ドイツから多軸挿入編み機を安城工場に導入し、多軸補強用繊維基材「ＫＵＲＡＭＡＳＵ（＝クラマス）」の製造、販売を開始した。
クラマスは強化繊維としてガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維を各層で"任意"の方向で引きそろえて積層し、ポリエステルやガラス糸などで編みシートにしたもの。繊維補強基材は欧州諸国では軽量化を目的として自動車用ボディー、航空機、船舶、風力発電用ブレードなどでＦＲＰ繊維補強基材として使用され、日本でも今後需要拡大が見込まれる。ＦＲＰ分野では風力発電用ブレードや橋梁などの建設構造材、車両、管構成材料などへ拡販。土木分野では耐震補強用基材などの商品化を検討し、年間売上高２億円を目指す。
７月／日清紡、
＜日清紡「クリーンテクター」／光触媒の機能加工素材開発＞
日清紡は、光触媒を利用した抗菌防臭、消臭、防汚の各種機能加工を「クリーンテクター」シリーズとして販売する。抗菌防臭加工は「クリーンテクター１」と名付けて提案。独自技術で光触媒の力を最大限に発揮させ、高い抗菌防臭性と耐久性を実現した。
「クリーンテクター２」では消臭加工で展開。光触媒による有機物分解作用と、特殊セラミックによる物理吸着・化学吸着力の組み合わせで提案する。防汚加工の「クリーンテクター３」は、衣服の汗ジミなどを分解する。また、日光干しで洗濯時の残留汚れ成分の除去効果を発揮する。
クリーンテクターは純綿やポリエステル混生地などに付与することが可能。ユニフォーム用織物として先行販売しシャツ、編み地など幅広い用途からの需要も見込む。
＜ユニチカテキスタイル「藍竹」／竹繊維をブランド化＞
ユニチカテキスタイルは、“竹”そのものの繊維を使った織物、ニット素材を「藍竹」ブランドとして販売する。リヨセル使いの「シルフ」や、綿、ウール、ポリエステルなどと組み合わせた複合素材としても提案し、初年度で約５０万メートルの生地販売量を計画する。
同社はすでに今年３月の新素材展示会「ライブテックス」で竹素材を打ち出していた。新たにブランド化することで、メンズ、レディースウエア、ユニフォーム、ホームテキスタイルなど、より幅広い分野に販売することを狙う。
竹繊維は中国浙江省南方の孟宗竹を使った天然竹を繊維化したものを使用。中国の原料メーカーと取り組み、商品化に成功した。混率は自由に設定が可能で、竹繊維１００％でも同社の後加工技術でチクチク感を低減した。風合いはラミーやリネンなどの麻に近い。複合化により着用感や清涼感に優れ「綿を上回る吸放湿性」を持った機能素材としても提案する。
番外編／まだまだある！こんな新素材も登場
大きく発表はしていないが、これから売り出そうとする新素材はまだまだある。最近、原料からの差別化を進める新内外綿は今年、再生セルロース繊維「テンセル」とバナナ、パイナップル、ハイビスカス繊維の４者混「トロピカルヤーン」や、テンセルとトリアセテート繊維の交織、混紡素材「クリスタルファイン」などを開発した。テンセルを軸にした差別化素材が充実する。
一方、細番手素材が充実してきた東邦テキスタイルは薄地でも暖かい素材が目白押しだ。マイクロアクリルの「ソリスト」シリーズでは、販売の核である長方形断面レーヨン「バイロフト」との混紡素材「ソリスト・サーモ」にプリントや反染めのジャカードをラインアップ。染色技術の向上で“ふわっ”とした生地にもくっきりしたプリントができるようになった。ソリスト・サーモのストレッチ素材も開発。染色加工子会社のトーホウダイラック（大阪府泉南市）の技術で、難しいとされるストレッチの起毛素材も供給することが可能だ。