毛羽少ない/細番手/新紡績法…用途広がる空紡糸
2005年08月19日 (金曜日)
カジュアルで脚光
リング糸に比べて表情が硬く、安物の代名詞――。一昔前にはそのような評価が定着していた空気精紡(OE)糸。しかし、時代の変化や、技術革新による紡績法の向上により見直されつつある。「風合いがカジュアル素材として最適」といった声も聞かれ、中には欧州の高級ブランドに原糸が使われるなど、用途の幅も広がってきた。
差別化志向が追い風に
OE機はチェコのインベスタ(現エリテックス)が1963年に開発し、67年にOE機「BD―200」に関する技術提携を結んだダイワボウが世界で初めて実用化に成功した。その後、大手紡績をはじめ、各社でOE機の導入が図られたようだが「自動化されていない」「強力が弱く、しかも粗くて硬い」などの理由で、80年をピークに減少の一途をたどる。その後、独シュラホースト社がBD―200に比べ合理化された「オートコロ」を開発し、再び導入する企業もあったようだが、結局ごく一部の企業が保有するのみにとどまった。
しかしここ数年、差別化志向でリング糸とは違った風合いを求める声が多くなり、OE機の設備を持つ紡績各社では、その特徴を生かした開発が加速してきた。
ダイワボウは紡績子会社のダイワボウマテリアルズの和歌山工場でOE機を保有する形となるが、日本最大の9976錘を持つ。世界で最初にOE機を実用化しただけに、開発面では非常に強いこだわりがある。
最近、販売を伸ばしているのが「エアコンパクト」だ。毛羽が非常に少ないのが特徴で、BD―200の改造や原料の選択、紡出条件の設定、工程管理など工夫し、3年前に開発した。今期の販売量はすでに300コリ以上に達し、前年度を上回るペースで推移する。新たに強撚タイプの「エアコンパクトV」を投入するなど、素材のバリエーションを広げることで販売量の拡大を狙う。
伸度や強度の問題で40番手以上を生産できないのもOE糸の欠点の一つだったが、それも克服されてきた。三陽合繊(大阪府和泉市)はBD―200を改造し、4年間の研究を経て、今年ようやく60番手の開発にこぎつけた。リング糸とは違った風合いを持つOE糸に関心を寄せる顧客も多く、現在ニッターを中心に拡販を進める。森田文夫社長は「空紡糸の革命を起こしたい」と、細番手化以外にも軽量化、形状変化など様々な特殊OE糸の開発に取り組む考え。
4年前から賃紡100%という現状を脱却するために、差別化糸の開発に乗り出したサンランド(大阪府泉南市)は、今年OE機で新しい製造法を見いだし、これを「remix(リミックス)」製法と名付け、特許を出願した。OEの開繊ローラーの供給口にスライバーと一緒に糸を供給するという新しい発想で、理論上20者混糸の生産も可能だ。
OE糸は評価の高まりとともに着実に用途も広げている。三陽合繊の場合、ピマ使いのOE糸が「とてもきれいに編める」(森田社長)との理由で島精機製作所の「ホールガーメント」横編み機向けに人気だという。
また、サンランドではエジプト超長綿使いの素材が欧州の高級ブランドのジャケット素材に採用。リミックスによる素材もセレクトショップなどから注目を集めているという。同製法の場合、1錘ごとに違う原糸を生産でき「顧客の意に沿ったモノ作りがしやすい」(木下千余作営業課長)利点もある。その長所を生かし、今までになかった「川下との直接的な連携」を意識したモノ作りを模索する。