弾性繊維特集/スパンデックス

2005年11月15日 (火曜日)

機能糸などに活路

 ポリウレタン弾性繊維(スパンデックス)が高収益事業というかつての面影をなくし、厳しい局面を迎えている。国産企業の大半が増設を実施。各社が事業拡大に並々ならぬ意欲を見せていたのは、わずか5年ほど前だ。今では東洋紡、フジボウ小坂井、日清紡は営業赤字で、東レと米インビスタ合弁のオペロンテックス、旭化成せんいも今上期、減収減益を強いられている。オペロンテックスを除き輸出比率が高いスパンデックスだけに、主要仕向け先である中国での大増設による需給失調、糸値下落の影響を受けた形だ。需給失調はしばらく続くとの見通しが大半を占めるなか、国産企業は機能糸など差別化に活路を見いだそうとしている。

荒れる中国市況/需給失調で糸値急落

 スパンデックスの需給失調はすでに予想されていた。中国での生産設備の急増が進んでいたからだ。同時に、中国と欧米との繊維貿易摩擦も市況低迷に拍車をかけた。トレンド面でもストレッチ素材がある程度、いきわたり、昨年急増した婦人服向け織物需要も勢いをなくしたことも大きい。旭化成せんいの工藤幸四郎ロイカ営業部長は「瞬間的に需要が止まったため、各社は慌てて、安値玉が飛んだ」と指摘する。業界推定によれば、44デシテックス糸で、1キロ当たり5~7ドル、22デシテックス糸で11~12ドルが最安値と言われるが、なかには3ドル台の商品も乱れ飛んだとも言われる。

 こうしたなか、日本企業品も価格差はあるものの、足を引っ張られ、各社の収益は悪化する。

 中国におけるスパンデックス市況の低迷は日本企業だけにとどまらない。韓国ではすでにインビスタとセハンの合弁会社であるDSIが今年8月末に設備を廃棄。コーロンは10月に生産を中断した。韓国でのスパンデックス生産のパイオニアの泰光産業も6分の1近くへの縮小を検討していると言う。韓国で一人気を吐くのは暁星ぐらい。中国最大、世界第2位という規模の勝負で臨む考えだ。

差別化比率向上へ/資材開発もカギ握る

 こうした暁星のような規模拡大による戦略は、日本企業には不可能。「需給失調はしばらく続く」(オペロンテックスの高主秀一常務)なか、中国企業や暁星、インビスタとは一線を画して、差別化を追求していくしか、生き残り策はないとの意見で共通する。

 オペロンテックスは「いかに中国市況に巻き込まれないようにするかがポイント」として、定評のあるリテール・ブランドマーケティング戦略を推進する一方、品質向上に継続的に取り組む。そして、同時に差別化品の拡大も課題に挙げる。

 同社の差別化品は全体の15%、準差別化品が55%、定番品が30%。これを差別化品30%、準差別化品55%、定番品15%にする考え。定番品の多くを占める紙おむつ用でもポリマー改質を含めて準差別化品に引き上げると言う。

 すでに、インビスタ向けの低採算品応援輸出はやめ、それに当たる数%減産も実施するなど「量より質を追求する」姿勢を明確にしている。

 旭化成せんいはいち早く差別化強化を進めてきた。とくに、国内生産品についてはサブブランドを付けて展開する機能糸が主力になっている。輸出比率も5割強を占めるものの、22デシテックス糸を除くと、定番糸はほとんどない。全体でも機能糸比率を7~8割まで高める方針だ。

 機能糸の拡充を進める一方、資材分野の開拓にも力を入れている。「いかに新しい糸を開発し資材に参入できるかは長期的にみてロイカのカギを握る」と工藤営業部長は述べ、同分野を中心に研究開発を強化する考えを示す。一方、海外拠点も機能糸生産に乗り出す。すでにタイ・アサヒカセイ・スパンデックスでは高耐塩素性を持つ「ロイカSP」の生産を始めており、中国の杭州旭化成アンルンでも検討する。

不採算品から撤退/生地との連携強化も

 大手2社が差別化を追求するなか、東洋紡、フジボウ小坂井、日清紡も同様の動きをみせる。この戦略にのっとり、不採算品から撤収。減産にも着手した。

 東洋紡はかなりの比率を占め、中国向け44デシテックス糸など不採算の定番糸輸出をやめた。詳細は明らかにしていないが、大幅な減産となっている。今後は「要望に応じた糸種を供給しながら、好評の消臭糸など機能糸の拡充を図る」(坂元亮一衣料ファイバー事業部長)ことで収益改善を目指す。

 9月1日で持株会社制移行に伴い分社化されたフジボウ小坂井(愛知県宝飯郡)は、6、7月から2割近い減産に踏み切り、不採算品から手を引いた。そして、今後はフジボウテキスタイルと連携した生地展開を強化するほか、サポーターなど医療資材の拡大、機能糸、機能加工品の拡大に取り組む。フジボウテキスタイルへの供給は現状15~20%で「これを引き上げていく」(平野亨取締役営業統括)方針。また、機能糸では新タイプの上市を計画中で、現在10%弱の機能糸比率を高める。

 日清紡も8月から減産を行う一方、スパンデックス「モビロン」熱融着糸、Rタイプに力を入れる。「Rタイプはインナー用に顧客が広がっている」(須賀田道明モビロン部長)ことから、05年度は月10トン強の規模にある。Rタイプ交編生地を熱セットすると、スパンデックス同士が接着するため、裁断した部分がほつれない。このため、通常、袖口やすそ部分を内側に折り込んでかがる縫製の必要がないなどの特徴を持つ。

ダンピング来年3月決着/業界再編の可能性も?

 スパンデックスを使用したコア・スパン・ヤーン(C・S・Y)を生産販売する日東紡は10月1日付で、生産部門を分社化。ニットーボー新潟として新スタートを切った。安定操業を第一義に掲げ、C・S・Y以外の生産に取り組む一方、販売面では輸出拡大や製品OEM(相手先ブランドによる生産)を強化する方針を示す。

 中国を中心にスパンデックス市況が低迷するなかで、各社は機能糸を中心に、定番糸からの脱却を進めている。ただ、需給バランスの改善や糸値の回復については期待薄との声が多い。

 中国のダンピング提訴も来年3月には決着する。日本品に対しアンチダンピング課税が行われる可能性も高い。その面ではますます、中国内需向けのスパンデックス輸出は難しくなる。

 また、機能糸が定番糸に比べ、どの程度、付加価値を得ることができるかどうかは大きなポイントになりそうだが、各社が取り組む機能糸開発、販売の進捗次第では、国内のスパンデックス業界再編の動きもあり得ない話ではない。

 果たして、どういう動きになるのか。国産スパンデックス業界の動きから目が離せない。

非ウレタン弾性繊維/PTT繊維伸び鈍化もすそ野広がる

 スパンデックスではないが、ストレッチ性を有するPTT繊維、オレフィン系弾性繊維はまだ発展途上段階。荒れるスパンデックスとは一線を画しているが、ややその成長率に鈍化がみられる。スパンデックス低迷の影響も受けているからだ。

 オペロンテックスの「T―400」はPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)とポリエステルのサイド・バイ・サイド糸だが「一時の拡大からステージが変り、伸びが鈍化した」と高主秀一常務は言う。

 旭化成せんいと帝人ファイバーとの合弁会社であるソロテックスの久保勝人社長も「主力の婦人服の落ち込みから、今年度販売は微増にとどまる」と語る。

 T―400はデニムなど婦人・紳士服向けのストレッチ素材の勢いが鈍っていることが大きい。同社は今年度、前年比3割増の販売計画を組んでいたが、10%台の伸びにとどまりそうだ。ただ、すそ野は広がっている。シャツ地やユニフォーム、衣料資材などは全体の10%を占めるまでになっている。

 ソロテックスも先行していた婦人服地用が3割近く落ち込んだ。合繊婦人ボトムの落ち込みをそのまま反映した形だが「スポーツ、インナー・肌着、裏地、資材など新たな芽が生まれており、すそ野が広がっている」と手応えも示す。

 PTT繊維はストレッチ性だけではない。形態安定性、形状回復性も大きな特徴。それを生かせばまだまだ可能性は広がる。ソロテックスでは短繊維で不織布や詰め綿などの展開も始めている。

 東洋紡はオレフィン系弾性繊維「ダウXLA」を生産する。展開当初、耐薬品性、耐光性、耐熱性など各種の高い耐久性を持つため、産業資材用途中心の販売を想定していた。しかし、栗田和夫執行役員機能ファイバー事業総括部長は「軽く、薄く、伸びる生地が生産可能となるため、衣料品からの引き合いが良い」と話す。05年度、06年度ともに、100トンの販売を見込む。

 すでに、05春夏からゴルフの「マンシングウェア」やスーツ用途に展開。06春夏では、フォーマルシャツや水着などでも採用される見通しだ。

 今後も、ユニフォームやスーツなど衣料用途中心に深耕する。一方で、カーシート用途への開発も進めている。従来のスパンデックスは、耐久性の問題からカーシートへの採用が困難だった。そのため、編み地による伸縮でカーシートにストレッチ性を付与していた。ダウXLAは高い耐久性を持つため、織物のカーシートにもストレッチ性を加えることができる。

 ダウXLAを採用するには素材に合わせた製品設計や加工ノウハウが必要となる。そのため、製品での差別化につながる。栗田執行役員は「商品開発に苦労するが、販売は苦労しない」とみる。

 ダウXLAの比重は、0・89と、レギュラースパンデックス(1・2)やポリプロピレン(0・91)よりも軽い。耐薬品性、耐光性、耐熱性でもレギュラースパンデックスよりも優れている。耐塩素性では、耐塩素性スパンデックスよりも優位だ。

私はこう見るスパンデックス市場/オペロンテックス 常務・高主秀一氏

――スパンデックス市況が低迷している。

 中国市場を中心として需給バランスが失調し、糸値が下落することはある程度、想定されていたことであり『想定の範囲内』でもある。原料価格が上昇するなかで、中国は換金目的の安値玉も出て混乱しているが、それ以外の価格は落ち着いてきている。

 国内も中国市場混乱の影響がゼロではない。基本的に需給は失調しており、定番糸は国内でも下がっている。しかし、国内中心の当社としては、差別化品や高品質糸で異なる世界を築けている。価格も安定しており、全般的な市況と当社との格差がある。

――その面で今上期の販売量は。

 アウター用はコアヤーン向けを中心に2ケタ%台の落ち込みとなったが、紙おむつ用は順調に拡大しており、水着・インナー用も堅調だ。紙おむつ用太繊度糸が増えたため、平均単価は下がっているが、各用途とも糸値は下がっていない。

――米インビスタ向けの応援輸出はどうか。

 インビスタ向けも低採算品はやめた。量よりも質を追求するなかでは合わないと判断した。これに伴い、1年強前から数%の減産も行っている。

――中国のスパンデックス需給をどうみる。

 現有能力は年間20万トンと言われるが、実生産量は15~16万トンにとどまるとみている。それに対し、需要量は14万トンで、需給ギャップは大きくない。しかし、20万トンあるという暗黙の圧力というか、心理的な供給過剰感が糸値に表れている。

――スパンデックス需給の改善はあるのか。

 中国需要は増えていく。20万トンという能力も時間が経てば埋まるだろう。原油価格の高騰や糸値下落などから増設ピッチも鈍化するはず。その面で、08年ぐらいにはバランスするのではないかとみている。ただ、糸値が上昇することはないだろう。

――スパンデックスもポリエステルと同じ道を歩んでいくのか。

 ポリエステルのようにはならない。なぜならメーカーごとに品質の差は大きく、安値玉に変えることはリスクが大きい。品質を重視しないものは別だが…。

 今でも、中国市場では部分的な投げ売りと通常価格、そして国産品を中心とする高品質品とでは価格差がある。言ってみれば、松竹梅。そこがポリエステルとは違う。