繊維機械特集・ポバール/需要旺盛も採算難続く
2006年05月12日 (金曜日)
原料高吸収の再値上げへ
日本酢ビ・ポバール工業会がまとめた2005年のポバール(ポリビニルアルコール)出荷高は20万6467トンで、前年に比べ3%減少した。04年は1999年以来5年ぶりに21万トンを突破した絶好調とも言える年で、前年比ではわずかに減少したものの、05年も活況は変わっていない。
用途別に見た出荷でまず目を引くのは、ビニロン用の大幅な伸び。アスベスト(石綿)被害が社会問題となり、その代替品としてビニロンの需要が高まったためだ。
一般市販用は用途によって、多少の増減はあるが、繊維用を除き、前年の活況を維持したと言える。ポバールは合成高分子の一種だが、水に溶ける特性を持つ。さらに造膜性、接着性、乳化性、耐油性、耐薬品性などにも優れているため、幅広い分野で使われる。近年とくに伸びているのが、自動車のフロントガラス用中間膜、インクジェット用紙などの情報用紙向け加工剤で、従来になかった新しい用途の開拓や深耕が現在の活況を支えていると言えそうだ。
繊維用は01、02年のような大幅な落ち込みはなくなったものの、減少の歯止めは依然掛かっていない。ただ、織物の生産が減り続けていることから見ると、05年の微減は健闘とも言える。
05年の出荷でただ一つ大きく落ち込んだのが、輸出だ。これは海外からの引き合いが後退したためではない。海外の需要はむしろ増える方向にあったが、国内の需要がおう盛で、メーカーが国内販売を優先したことが輸出減につながった。最大手のクラレ・ポバール樹脂カンパニーの岡山事業所が昨年9月に火災に遭い、ポバールのタイト感がさらに強まったことも、国内販売優先の一因と見られる。
今年に入ってからもポバールの需要はおう盛で、メーカーは一昨年来の活況を継続できると見ている。しかし、採算が問題となる。
メーカーは昨年10月出荷分から、ポバールの価格を1キロ20円引き上げたが、その後、原油価格が一段と上昇し、コストプッシュが強まったため、再度値上げに動き出す考えだ。
昨年10月の値上げはメーカーの要求35円から見ると、半分強の達成率にとどまった。それ以前の価格交渉も同様な結果に終わっており、メーカーにとってはその時点の原料コストを吸収できない厳しい採算がずっと続いていたことになる。
連続的な値上げはおう盛な需要に一部水を差す懸念もあるが、これ以上の採算悪化は操業にも影響する。値上げの幅と時期について、メーカーがどう打ち出すか注目される。
グローバル展開を加速/クラレ・ポバール樹脂カンパニー
クラレ・ポバール樹脂カンパニーがポバールのグローバル展開を加速している。ポバールの生産拠点として日本、シンガポール、ドイツの三軸体制を構築。それぞれの地域でその市場の動向に適した生産、販売を進めている。
欧州の生産拠点、クラレ スペシャリティーズ ヨーロッパはPVB(ポリビニルブチラール)フィルムの欧州での需要増に対応するため、PVBフィルムの生産能力を来年6月めどに、年産8000トン増強し、同3万4000トンに拡大することを決めた。PVBフィルムはポバール樹脂から作られるPVB樹脂をフィルム化したもので、自動車フロントガラスや建築用窓ガラスなどの合わせガラス用中間膜に使われる。
日本国内でのポバール販売も好調で、とくにインクジェット用紙、PVB樹脂の伸びが大きい。繊維用途は厳しい環境が続いているが、高難度織物に対応する配合糊剤の拡大や技術サービスの強化などによって、前年並みの実績を維持している。
服部次男ポバール販売部長は今後もおう盛な需要が続くと見ているが、問題は採算。同社では昨年10月出荷分から、ポバールの価格を1キロ20円値上げした。当初の要求は同35円だったが、ユーザーの抵抗から、20円の値上げで決着したものだ。
しかし、その後も原油価格の高騰が続き、原料コストの一段の上昇が避けられなくなったことから、コストプッシュの転嫁が「最大のテーマ」(服部部長)として再び浮上。前回の積み残し分を含めて、近く再値上げに踏み切る考えだ。
同社ではポバールのリーディングカンパニーとして、新規用途の開拓に積極的に取り組んでいるが、今、開発の大きなテーマとしているのが、環境に優しい商品。一部の用途ではサンプル作成まで進んでおり、今後の成果が注目される。
もう一段の増設も視野に/日本酢ビ・ポバール
日本酢ビ・ポバールは2004年、ポバール生産設備のボトムアップを実施し、生産能力を年間ベースで5000トン増強した。ポバールのおう盛な需要に対応したものだが、その後も需要は高水準で推移しており、辻本修介大阪営業部グループ長・部長は「もう一段の増設」を視野に入れる。
ポバールの販売で最近とくに好調なのがビニロン。アスベスト代替として建設業界中心に引き合いが活発化しており、この勢いは当面続くと見ている。一般市販用も各用途ともに堅調で、需要減につながるような懸念材料は今のところ見当たらない。
辻本部長は減少傾向にあった繊維用も昨年で下げ止まったと見ている。織物産地の状況は依然厳しいものの、中国との差別化を図る付加価値の高い織物の開発が進み、ポバールリッチの配合糊剤の需要が増えているためだ。
織物生産の回復は期待しにくいが、辻本部長は配合糊剤への要求は今後さらに強まると見ており、配合糊剤メーカーとの連携強化で需要の掘り起こしを図る。また、国内だけでなく、東南アジアを中心とした輸出にも積極的に取り組む考えだ。
好調な販売数量に対し、問題となるのが採算。昨年10月出荷分からの値上げが同社要求の1キロ35円に対し、同20円にとどまったことで、本格的な採算改善は先送りとなった。しかし、その後の原油価格の上昇で、コストプッシュがさらに強まり、10月の値上げを帳消しにしかねない状況となっている。
辻本部長は採算改善のため、コストアップ分転嫁の再値上げと併せて、感熱紙用途中心に伸びる同社の独自商品、Dポリマーなどの付加価値品をさらに拡大していく考えを明らかにしている。