新植物繊維原料特集/ぞくぞく登場 新植物繊維
2006年05月29日 (月曜日)
竹/竹そのものを繊維化
竹は成長が早く、繁殖力も旺盛な植物だ。その竹を使った繊維といえば、従来はビスコース製法によるバンブーレーヨンが有名だ。ところがついに竹そのものを繊維化した素材が登場している。日清紡やユニチカテキスタイル、ダイワボウノイ、シキボウ、富士紡、三澤繊維が商品化している。
ユニチカテキスタイル「藍竹」は開繊した竹繊維100%使い。清涼感とシャリ感があり、とくにニットでの独特の光沢が素晴らしい。高級婦人衣料向けとして今後の拡大に期待を寄せている。また綿や再生ポリエステルとの複合で夏用ユニフォームにも展開する。クールビズ対応のシャツやデニム素材としても好評だ。
日清紡「自然譜・竹のしらべ・」は開繊した竹を綿との混紡したもの。綿と混紡することで、より着心地のいい風合いを実現している。
ダイワボウノイ「竹碧」も綿との混紡素材。綿と混紡することで中番手糸を紡績することが可能になった。抗菌作用についても現在、研究開発中だ。
竹繊維そのものを使った素材は、開繊や紡績に高い技術水準が要求される。その意味で、日本独自の差別化商材としての存在感が高まっている。
もちろんバンブーレーヨンも健在。東レ、クラボウ、日本毛織などが商品化し、高い吸放湿性、接触冷感のほか抗菌作用もある。
ヘンプ/エコ素材として好評
ヘンプとは「大麻」のこと。当然、麻薬ではない。繊維になるのは麻薬成分とは無関係な茎の部分で、日本では古くから衣料に使われてきた植物だ。通常のラミーやリネンに比べ、シャリ感があり、清涼感がある。ダイワボウノイが「ヘンプル」として商品化している。
原料のヘンプは、虫害や天候に強い。生育速度も速く、化学肥料無しで栽培できるなど、環境にきわめて優しい植物だ。炭酸ガスの吸収量も多いなど、今後さらに注目が集まる可能性がある。
ダイワボウノイの「ヘンプル」は、ヘンプ繊維50%、綿50%の混紡で、ヘンプ繊維の素材特徴を出せるように工夫。繊維が太く短いため、とくに精紡段階で高度な技術が要求される難しい素材だが、同社では、これもすでに克服している。
用途は主にカジュアル衣料用が中心。環境に配慮したエコロジー素材としてのストーリー性が好評で、すでに固定顧客も獲得。国内の大手アパレルブランドに採用されるなど、販売はコンスタントに拡大中だ。
トウモロコシ(ポリ乳酸)/合繊界の次期エース
トウモロコシのでんぷんを発酵させて作る乳酸を原料にするのがポリ乳酸(PLA)繊維。乳酸を重合してポリ乳酸ポリマーにし、溶融紡糸で作られる。合繊メーカーが次代の中心素材として期待を寄せる植物原料繊維だ。東レが「エコディア」、クラレが「ジオダイナ」、ユニチカが「テラマック」として商品化している。
もともとは生分解性のある合成繊維として開発が進んだが、最近は自動車業界を中心に「カーボンニュートラル(大気中の二酸化炭素量に影響を与えない)」素材の要求が高まっていることから注目されている。製造段階でのエネルギー消費量も少なく、燃やしても有毒ガスが発生せず、二酸化炭素の発生量も少ない低環境負荷素材だ。自動車用マットや天井材など産業資材のほか、寝装、カーペットなど様々な分野で活用できる。
また、繊維だけでなく樹脂・フィルムとしても使え、幅広い用途展開が可能。製造も既存設備のマイナーチェンジで紡糸ができ、大きな設備投資をしなくてもよい点も合繊メーカーにとっては魅力だ。
一方、ネックだったのは原料価格・製造コストの高さ。東レの場合、ポリエステル対比で約3倍のコストがかかった。ところが最近の原油高で、この差が縮まっている。原油が100ドルになると現状でもPLAとのコスト差は無くなる計算だ。原油価格は今後も高止まりが予想される。つまり、PLAのコストダウンがさらに進めば、既存の合繊に取って代わる可能性が現実味を増す。
月桃/かりゆしウエアの定番素材
月桃はショウガ科の多年草で東南アジアに広く分布する。日本では琉球列島に多く見られ、沖縄では身近な植物として知られている。葉には抗菌作用があり、伝統的に整腸剤などに使われていたが、茎は廃棄されていた。
これに注目したのがクラボウ。茎をエコロジカルなバイオマス資源として活用し、同社の北条工場で綿と混紡してシャツ地を生産、「草木布」シリーズのひとつとして商品化している。適度にハリ・コシがあり清潔感のある素材だ。
月桃は沖縄ではおなじみの植物だけあって、沖縄県衣類縫製品工業組合が展開する「かりゆしウエア」に採用され、絶大な支持を得ている。
ただし、かりゆしウエアは同組合が加盟各社に発行する「かりゆしタグ」の付いたシャツだけが名のれるため量が少ない。そこで今年から一般のシャツとしても月桃繊維を積極的にアピール。綿100%とは一味違った差別化素材として訴求していく。クールビズ対応素材としての期待も大きい。
また、タオルやマットなどリビング雑貨・小物分野への展開も積極的に狙っている。リビング分野では安いものではなくこだわりの商材が好まれる傾向が強まっているからだ。消費者の健康志向やロハスブームをうまくつかみ、販売の拡大を狙っている。
ラベンダー/驚きのリラックス効果
北海道富良野の花畑が有名なベンダーはシソ科多年草。通常は乾燥させてアロマ材などに使うが、それが繊維になるというからびっくりだ。そんな驚きの一品がクラボウの「香織布(かおりふ)」。
ラベンダーの葉や茎からはごく少量の繊維が取れる。クラボウは北海道の特定農園と契約して原料を確保しているが、その量は年間わずか数トン。おまけに夏の間しか取れず、腐敗を防ぐために工場への輸送にもクール便を使うとなど、極めて管理の難しい原料だ。
そのラベンダー繊維を綿と混紡して開発された香織布は、生地にラベンダーオイルを添加する。こちらのオイルも合成化合物無添加の純天然のものを使うことで自然な優しい香が心身を癒し、リラクゼーション効果がある。
ハンカチやタオルなどリビング分野の雑貨・小物で展開するが、なにぶん原料の絶対量に限りがあるため大量生産は難しい。希少性を売りにする高付加価値商品だ。
北海道の観光産業と取り組み、「地産地消」をコンセプトに、お土産品としての展開も狙っている。
バナナ/天然の中空繊維
バナナは赤道地域で広く栽培されているお馴染みの農作物だが、実を収穫した後の茎の廃棄が大きな問題になっている。通常は土中廃棄するが、量が多すぎると土壌を傷める。その農業廃棄物をバイオマス資源として再利用したのがバナナ繊維だ。日清紡、富士紡が商品化している。
日清紡は、2001年から政府ODA活動の一環である「バナナ・グリーンゴールドプロジェクト(廃棄される茎を有効活用する研究)」に参加。テキスタイル化の共同研究に取り組み、開発に成功した。原料はフィリピン、ミンダナオ島の特定農園から確保している。
バナナ繊維の特徴は、天然の中空構造を持つ繊維である点だ。そのため吸水性に優れ、軽くしなやかな風合いと自然なムラ感が持ち味。同社では綿70%、バナナ繊維30%の混紡で商品化している。また開繊や加工段階でも化学薬剤は一切使わない環境配慮素材として訴求している。
シャツ地やデニムとして好評で、販売は年々拡大している。06からはバナナ繊維使い婦人衣料の通販をスタートさせている。
まだまだあるぞ/新植物繊維原料
新植物繊維原料は、まだまだある。まさに・繊維なら何でも糸になる・といった状態だ。
パイナップル繊維は天然のマイクロファイバー。吸放性に優れ、涼しい着心地が持ち味だ。富士紡がデニムやアウター用に商品化している。
沖縄県の「さとうきび総合利用」政策の一環として登場したのがシキボウのサトウキビ繊維。同県粟国島のサトウキビ外皮を開繊して綿と混紡している。かりゆしウエア用として人気が高い。
珍しいところでは奈良県繊維工業協同組合連合会が展開する「葛根繊維」。奈良県吉野地方名産の吉野葛でんぷんを採取したあとの葛根を再利用したものだ。草木染によるカラーデザイン企画「彩りの宴」と合せて、伝統と地域色豊かな商品展開を行っている。
その他、ココナッツ、カポック、ケナフと多士済々。新植物繊維原料の可能性は、どんどん広がっている。