三井グループの野望を探る
1999年09月14日 (火曜日)
三井化学、東レの三井グループ二社がスパンボンド事業を急拡大している。三井化学は二〇〇〇年四月に年産九千トンを増設し同三万六千トンに、東レはセハン・インダストリーズとの合弁により、内外合わせて同二万八千トンの規模となる。合わせると同六万四千トンになるが、これは現在世界第三位のPGIノンウーブンズに匹敵する。ポリプロピレン・スパンボンドは量が勝負。それに向けて体制を整える三井グループの野望を探る。
国内最大手のスパンボンドメーカーである三井化学は現在、ポリプロピレンだけで年産二万七千トンの規模を持つ。すでに、ポリプロピレン・スパンボンドで国内二位の旭化成(同一万三千トン)に比べ二倍強の規模だが、旭化成が増設意欲を失いつつあることから、今回の増設でその差はさらに広がることになる。
今回、三井化学が新設するのはSMS(メルトブロー不織布をスパンボンドでサンドイッチしたもの)。ドイツのライフェンフォイザー社製「レイコフィルシステムⅢ」と同社の技術を組み合わせたものだという。
ポリプロピレン・スパンボンドの最大用途である紙おむつのサイドギャザーは低目付化(低価格化)が進んでおり、その対応素材としてSMSが世界的な主流になりつつある。日本も同様で、これに乗り遅れないために同社では日本初の国産化に踏み切った。
建屋から新設した割に設備投資額が三十数億円と比較的少ないのは、次の能力増に合わせた形となっているため。需要が増えればさらに二〇%増は可能だということだ。
一方、ポリエステル・スパンボンドメーカーとしては国内最小であった東レもようやくスパンボンドに本腰を入れ始めた。日本で初めてポリエステル・スパンボンド「アクスター」を開発したメーカーとしてはあまりにも貧弱であった同社もセハン・インダストリーズとの合弁により大きく変わる。
かつての担当者が社内での立場を「士農工商アクスター」と表現したことがあったが、今ではそれも間違いなく変わっているはずだ。
とくに、ポリプロピレン・スパンボンド(年産一万四千トン)、そしてSMS(同六千トン)を手に入れた意味は大きい。これにより、世界的に不織布の成長用途である紙おむつ分野に参入することができるからだ。
SMSは機種が違うが三井化学と同じライフェンフォイザー社製。セハン時代から日本の紙おむつに採用されているだけに、SMSなしで紙おむつを攻める旭化成、ユニチカにとって脅威になるだろう。
また、東レでは同社の技術を導入したポリエステル・スパンボンド(同四千トン)では同じ韓国のコーロンも含めた形で、得意のグローバルオペレーションを展開する考えだ。ポリエステル・スパンボンドにおけるユニチカや東洋紡との競合はさらに強まるに違いない。
つまり、セハン・インダストリーズとの合弁は東レがスパンボンド事業に本気になったという証しであり、繊維同様スパンボンドでも覇権を握るための第一歩ともみられるからだ。
しかも、東レの力が増すことにより、三井化学がかつて「意味がない」と一笑に付した三井グループによる合弁の可能性も高まってくる。現在、紙おむつで販売ルートを持たない東レと紙おむつでは圧倒的な強さを誇る三井化学が一緒になれば、そのほかのメーカーが量的に追随することは難しくなる。
三井グループのスパンボンド連合が生まれる日は案外近いかもしれない。