2006秋季総合特集・ケーススタディ/我が社の中国戦略
2006年11月13日 (月曜日)
今年から第11次五カ年規画に取り組む中国繊維産業は、地球環境問題や省エネへの対応などを加速、その内容を年々レベルアップさせている。日本繊維産業が関与する条件がより整い、今後はハイレベルな日中相互補完関係が期待される。日本企業の中国戦略とは。その最前線を追う。
東レACS/中国で約400社が導入
アパレルCADシステムで日本最大のシェアを持つ東レACSは、中国でも採用が広がっており、現在までに日系企業を中心に約四百社がアパレルCADシステム「クレアコンポ」を導入している。導入されているのは複数のソフトウエアで構成される「クレアコンポ」シリーズのうち、中国でのニーズにマッチしたパターンメーキング、マーキング、グレーディング、CADデータ入力などのソフトウエアが中心だ。
中国では代理店を拠点に幅広い販売、サポート体制を築いており現在、香港・深せん地区のインベスコム、上海地区の上海麗泰信息技術有限公司の両代理店を窓口に販売、アフターサービスを行っている。とりわけ上海では、昨年4月から代理店の上海麗泰信息技術有限公司の強化を図り、当初5人だったスタッフも現在は30人まで拡大、そのサポート体制を強化した。さらに今年6月には青島、10月には大連に拠点を新設した。同社ではこれらの拠点を軸に、中国内での機械展への出展はもとより、プライベート展やセミナーも随時、実施していく。青島の拠点にはCAD、CAMのハードウエアをそろえたショールームも設けている。同社は「サポート体制および販売の強化と同時に、多くの情報を集めたい。より中国の市場にフィットする商品を出していく」としている。
また、今月からクレアコンポシリーズの新ライン「サイフォーマジック」の中国での販売をスタートさせた。同商品は縫製仕様書システムで、日本語、中国語、英語など多言語のOSに対応するととともに、それぞれの言語で作成された仕様書を、それぞれのOSで文字化けすることなく編集できるのが特徴。既に販売がスタートしている日本で好評を博しており、中国での拡販に期待を寄せている。
上海スーパーエクスプレス/大手SPAなど利用増加
上海スーパーエクスプレス(本社=東京都港区、略称=SSE)は、週2便の高速RORO(ロールオン・ロールオフ)船で上海・博多間を結び、エア便並みの速さで安く確実に運んでいる。このサービスの認知度が高まり、大手SPAが今年から恒常的に使用するなど、利用者が増加している。業態別では通販の伸びも目立つ。
上海発の運行は毎週火曜日と金曜日。上海・博多間を27時間で運行する。火曜日午前2時に出発する便だと、水曜日の午前7時ごろには博多に到着して通関、翌木曜日には東京や大阪の依頼主に届く。エア便の飛行時間は3時間程度だが、フォワダーが上海で荷造りして輸出申請し、日本到着後に輸入手続きする時間を考えると、SSEとあまり変わらない。SSEの費用はエア便の4分の・から2分の1だ。
エア便からSSEへ変更する際、既存の物流網では、博多をカバーしていないことが障害になることがある。しかし、SSEは博多から大阪や名古屋、東京までトラック便で、遠隔地は日本航空と提携した格安のエア便で運ぶことで、ユーザーになるべく負担を掛けずにSSEを利用できるようにしている。ともすれば輸送単価にとらわれがちだが、短納期対応による在庫の圧縮、見込み発注の削減など「全体最適」を考えれば、SSE活用のメリットは大きいと同社は強調する。
ミツヤコーポレーション/上海法人 軌道に乗る
アパレル製品を中心に“物流サービス業”を展開するミツヤコーポレーション(大阪府堺市)。昨年9月に設立した中国現地法人、上海弥通雅貿易の活動が1年を経過して軌道に乗ってきた。現地で流通加工を担う工場は、9月の検針、検品取扱量が25万枚を超えるまでになり、当初目標の1カ月当たり30万枚の取扱量が視野に入ってきた。従業員を90人に増やし、目標達成に向けて対応力強化への努力を続けている。
同社が中国へ進出した背景には「ファイナンス物流からマネジメント物流」(中辻晶彦社長)へのビジネスモデルの進化がある。LC開設などの決済代行業務に加え、製品の品質管理や生産管理など、より総合的なサービスの提供を目指す。上海法人についても、商業企業として取得した輸出入権や内販権などを活用し、物流、流通加工にとどまらず、総合的に繊維企業をサポートする。中辻社長は「顧客の不満、不便を解消するために、多面性を持ったビジネスを展開したい」と事業方針を説明する。
今後は中国沿海部でのネットワーク強化を軸に進出を加速する。すでに2008年の青島法人設立を目指して土地の選定に入ったほか、本社に中国人の新卒社員を昨年1人、今年2人採用し、日本式の“物流サービス業”を研修するなど、人員の面でも着々と準備を進めている。また、青島拠点の次のステップとして、10年には深せんに雑貨の取り扱いを中心とした拠点を設けることを計画する。
共栄倉庫/中国現法に検反機導入
倉庫業の共栄倉庫(大阪市淀川区)の中国現地法人で、倉庫保管、検品などを行う上海共栄泓明倉儲服務は今年5月、日本染色検査協会(ニッセンケン)と業務提携して工場内に検反機5台を導入、新たに検反事業を開始した。これにより検査成績証明書が発行でき、検反から検品、検針、物流までの一貫体制が整った。
さらに同じく5月に日本繊維製品品質技術センター(QTEC)の認定検品工場としての資格も取得した。この指定を受けることでGMSなどの量販店や専門店へ商品納入の際、小売店側の希望である「第三者機関である検品および検針をクリアされた商品の納入」という条件を満たし、日本より低コストでのサービス提供が可能となった。
保税区税関の許可をもとに、倉庫建物内に非保税区域(中国国内倉庫と同様の扱い)と保税区域を併設、隣接する上海物流園区内にある他社と提携し、増値税の早期還付や外貨決済など、多様なニーズに対応できる。
現状の検品作業取扱高は衣料全般で月間10万着前後、前年比約20%増と拡大した。
現在、工場内にはQTEC認定検品技術者が7人在籍し、出張検品にも積極的に対応する。奥雅由総経理は「足場固めの段階。短納期にどれだけ効率的に対応していくかが課題」と、顧客との信頼感を強めながら事業の拡大を進める考えだ。
共和エンタープライズ/年間70万着をOEM生産
紳士服製造卸と生産技術指導・生産管理を行う共和エンタープライズ(大阪府東大阪市)。紳士スーツやジャケット、カジュアルウエアなどを扱うメーカーで、1987年から中国・北京近郊に工場を持つ。スーツ換算で年間70万着をOEM(相手先ブランドによる生産)供給しており、同社のガーメント事業部が管轄する。
製品は着心地のよい高級スーツが中心。有名ブランドの専用ラインでは、サイクルの短いファッショントレンドに対応、紳士服業界における独自性をいかんなく発揮している。
多様化する時代にあって、企業もまた多彩な能力が求められる。同社の木崎素行社長は「アパレル分野で得た流行を読む力と、グローバルな経験から得た時代を見る目を生かして飛躍を目指す」と語る。
高付加価値化にも着眼。イオンテック事業部では着るだけでマイナスイオン効果を得ることができる加工“IONTEC”に続き、ステータスを極めるエグゼクティブ向けの「イオンテックシータ」を開発した。
GIC事業部では、アパレル輸入における品質管理を担う。輸入衣料に必要なスーツの再プレスから検査、補正、管理、配送、納品などすべての業務を一括管理する。
この管理システムは、インポート業務を行う衣料メーカーからのニーズが強い。これまでの経験を生かして発案した同システムは、輸入流通や品質管理にかかわるコストや人件費の無駄を一掃する。
ミツボシコーポレーション/中国と国内 使い分け
副資材商社のミツボシコーポレーション(広島県福山市)は今後、ユニフォーム向けの事業展開で、中国と国内の使い分けを推進していく考えだ。
ユニフォーム素材は国内生地が主力のため、副資材も国内で調達して海外の工場に送るケースが一般的だ。しかし、生産体制の整備やユーザーの価格志向の高まりを受けて、海外調達が増えつつある。同社は02年に初めて上海外高橋保税区に上海美津星貿易公司を開設した。
今後は浙江省平湖市の嘉興三星服飾輔料有限公司を軸に、国内外の事業所とのネットワークを生かす。海外対応は現状、2割程度しかないが、「原燃料高が続くと、製造コストを抑えたいアパレルの意向を受けて、中国対応が増加するかもしれない」(光成慶吾常務)とみて準備を進める。
06年3月期の繊維事業の売上高は64億円。副資材が40億円、縫製部門が24億円。今期は上期段階で、前年比数%の増収となった。仕入れコストの高騰による価格転嫁を進めてきたが、「交渉はほぼ完了した」(光成常務)と語る。
カケン/日本の消費者に安心安全を
日本化学繊維検査協会(カケン)は、88年の香港検査所開設以来、青島、大連、寧波、無錫に試験室を設けるとともに、上海や韓国、台湾、インドネシア、タイ、ベトナムで提携機関を設立し、日本向け試験業務を中心に、工場出張検査や持ち込み検査業務などを行っている。
海外業務の拠点である中国では、依頼の増加に伴い、職員数も増えた。現在は香港を含めると、350人以上のスタッフ(うち日本人駐在員33人)が業務にあたる。常に追求しているのは、日本国内同様、試験精度の向上による正確さと納期短縮によるスピードだ。
そのために中国では所長会議を毎月開催。さらに中国の中心拠点である上海では、2~3カ月に1度の割合で職員研修やセミナーを開き、技術レベルと試験レベルの向上に努める。
香港開設から18年、上海開設から12年が経過し、現地スタッフも育ってきた。最近では現地スタッフが中国語で、日本向け衣料の縫製基準や品質基準、取扱表示などについて研修を実施するまでになった。中国語のテキストも作成している。
久保恵二理事・国際部長は「多岐にわたる試験は地道な仕事。流通や物流の変化に対応し、国内外の手合わせをしながら、今後も日本の消費者に安心・安全な良いものを提供するお手伝いをする。そして日中間の繊維貿易発展に貢献していきたい」と語る。
QTEC/2ルート通じ証明書発行
日本繊維製品品質技術センター(QTEC)はこのほど、日系の検査機関では初めて中国深せん市に試験センターを仮オープンした。12月初旬には業務を開始する予定だ。QTECにとっては中国で4番目の試験センターとなる。
生活用品の生産に強い広東省を背景にしているため、深せん試験センターはカバンや靴などの検品に力を入れる。陣容は日本人2人、現地スタッフ10人。センターの延べ床面積は750平方メートル。住所は深せん市文錦南路1001号8階。
また、QTECは日本国内と中国の両方で、検品会社などへの指導・認証業務の依頼が急増している。半年前に比べ、国内では2社増の44社に、中国は12社増の36社になった。不良品が依然として減らないことや、針が製品から検出されるなどのトラブルを未然に防止する狙いがあると推測している。
さらに、無錫出入検験検疫局との業務提携により、中国内販向けの検査証明書を同局ルートでも7月末から発行できることになった。QTECはすでに国際検査機関のインターテックを通じて、内販用の検査証明書を発行できる体制を整えており、これで2つのルートから同証明書を発行できる。将来はQTECで試験したものをそのまま、無錫出入検験検疫局の証明書に転記することも可能になる見通し。