伊藤忠商事専務 繊維カンパニープレジデント・岡藤正広氏/OEM事業 大胆に改革
2006年11月13日 (月曜日)
産業資材分野 倍増めざす
伊藤忠商事繊維カンパニーは、来期(2007年度)の純利益200億円を目標に掲げる。岡藤正広専務繊維カンパニープレジデントは、この大きな目標達成に向けて、下期から来期にかけて収益の悪化しているアパレル製品OEM(相手先ブランドによる生産)事業の思い切った改革と、先端技術を活用した産業資材分野の重点的拡充という、2つの重要課題へ、組織の再改編も含めた抜本的な対応策を強力に推し進めていく方針だ。
中国事業見極め進める
――上期の業績はいかがでしたか。
通期の予想からすれば、ややスローペースです。昨年は上期に特別利益があったこと、逆に今年は特別損失を計上していることなどが要因で、現状の収益は通期計画の4割程度にとどまっています。しかし、想定の範囲内で予想外のことは起こっていません。
下期は昨年に事業投資を進めて今期から動き始めた「フィラ」や、シルバーアクセサリーのラグジュアリーブランド「クロムハーツ」、米カジュアルバッグブランド「レスポートサック」などのプロジェクトが収益に貢献するため、通期の計画に変更はありません。むしろ下期は川上、川中分野で最後に残った海外での商権整理を進め、来期の飛躍への足場を固めます。そのうえで来期は、以前から目標として掲げる純利益「200億円」を目指します。
――スローペースの要因はどこにありますか。
アパレル製品OEM事業は価格的に厳しい状況が続いており、収益面で相当苦しい状況にあります。ファーストリテイリングと東レの提携を見ても分かるように、今後は大手小売りやSPA(製造小売業)と素材メーカーの垂直統合が進むでしょう。この流れの中で商社が生き残るには、従来以上に頭を使い、付加価値を高めたビジネスを進めることが必要です。当社は今後、他社にまねのできない独自の方法へとOEM事業を抜本的に変えていきます。
――“伊藤忠モデル”を具体的にどのようにお考えですか。
アパレルやSPAは大手ばかりではありません。中小の活力あるアパレルもたくさんあります。そういう企業と製品事業に取り組むことで、商社が昔から持つ「小さいものをまとめて大きな力にする」「まとめて買って小口で売る」機能を違う形で発揮できます。
ひとつにはファッションである限り、当社が強みとするブランド事業は極めて重要です。中小アパレルが百貨店や量販店でビジネス展開するときに、ブランドは大きな価値を持ちます。有名ブランドばかりでなく、光る何かを持ったブランドを、日本に紹介する商社機能は今後も衰えないでしょう。
――ブランド以外の展開はいかがですか。
2つ目はリテール企業と提携し、素材から製品までの一貫ビジネスを広げていくことです。1月に発表したユニーとの包括的業務協力は順調に進み、今年の秋冬から共同の婦人服プライベートブランド「ドゥミエタージュ」を展開するなど、成果が表れてきました。ほかにもリテール分野で一緒にやりたいという有力企業もあり、現在、話を進めています。
部・課意識を排した組織横断的な取り組みを進め、客先対応を強化することも重要です。当社を含めて商社は製品ごとの縦割り意識が強く社内のコラボレーションが進みにくい側面がある。しかし、当社の歴史を振り返れば、顧客のビジネスが広がり、その要望に柔軟に対応することで、ビジネスが拡大し、成長してきたことを忘れてはいけません。全社横断的なOEM展開で客先対応を深めるために、専任の担当者を配し積極的に進めています。ほかにも“OEM改革”のための方策はあり、着々と手を打っています。
――中国事業をどうみていますか。
中国はいろいろな面でカントリーリスクがあるため、慎重に事業を進めています。とくに内販に関しては、これまで投資している案件などをじっくり吟味し、どこが思い切って進められるところなのかを見極めています。一方、中国をベースとした原料ビジネスは好調なので、これは香港を拠点にもっと思い切って事業全体をシフトすることも必要です。
――ほかに下期以降のポイントはありますか。
今後は先端技術を活用した産業資材分野が大きく伸びるでしょう。素材メーカーの動きを見ても、この分野が最も成長しています。現在、産業資材分野は繊維原料・資材部門の繊維資材部が対応しています。ビジネスとして安定していますが、既存の枠組みで小さくまとまっています。今後は本格的にこの分野を狙い、私がプレジデントの間に大きく伸ばしたい。
――具体的な展開を教えてください。
福井県との提携を生かして、昨年から新規事業として秀峰(福井市)の曲面立体印刷技術を活用したビジネスに取り組んできました。国内メーカーの携帯電話機で表面のプリントに次々と採用され、今期は新たな市場を開拓しています。自動車分野でもこの技術を活用したビジネスが進むなど、今後は需要の高まりに合わせて設備の増設や工場の拡張、海外での合弁工場設立まで視野に入れています。
インクマックスの無水染色技術を活用したインクジェットプリント関連事業、トスコとの提携によるディーゼルエンジン用次世代型排気ガス浄化フィルター(DPF)事業も順調です。
――産業資材分野でのポイントを聞かせてください。
この分野は開発力を持つメーカーが優位ですが、先端技術は大手企業だけのものではありません。繊維ビジネスで培ってきた産地との深い関係を生かし、世界に通用する独自技術を持つ中小企業と提携し、高度な技術力を確保します。そこに当社のノウハウと販売力を組み合わせて、これまでに無い市場を開拓できます。
当面は、産業資材分野のビジネスを純利益ベースで現在の倍増まで拡大することを目標とし、将来的には新規ビジネスを軌道に乗せることで、現在の部から部門にまで拡大することも可能だと考えています。
――来期は大きな動きがありそうです。
当社の繊維ビジネスはブランド関連事業が50%を超えています。今後はOEM事業、原料・テキスタイル事業、産業資材事業を合わせた分とブランドで50対50になるようにバランスを取りたい。そのためには、将来的に最も伸びる可能性を持つ産業資材分野や川下分野にもっと人員を配置する必要があります。来期は組織の改編を含め、思い切って改革を進めます。
(おかふじ・まさひろ)
1974年伊藤忠商事入社。2004年常務執行役員繊維カンパニープレジデント、同年常務。06年専務
今だから話せる私の失敗談
シャイな一面のある岡藤さん、若いときはあいさつで誤解を受けて失敗することが多かった。営業に出てすぐのころ、仕事納めの日に取引先の社長にきちっとあいさつをし損ない「もうあいつからは買うな」と怒らせ、「土下座して謝った」と苦笑する。そのときの取引先とは、それがきっかけで大きな商売を続けることになるのだが……。以来、お客さんや会社の上司、先輩は見ていないようで見ていると悟った。「気持ちの問題だから、相手がこちらを見ていても、見ていなくてもしっかりあいさつすることが大切」と言う。