在中国日系商社OEM製品事業/縫製拠点の確保熾烈に

2006年12月11日 (月曜日)

 【上海=於保佑輔】中国の日系商社は日本の景気回復や中国での内販拡大でOEM(相手先ブランドによる生産)製品事業を拡大している。その一方で、小ロット多品種短納期化やコスト削減などで「そろそろ限界にきている」との声が上がり始めている。欧米向けだけでなく、中国内需向けとの競合も激しくなる縫製拠点の確保。この傾向はしばらく続きそうだ。

内需向けとの競合も

 対日OEM製品の今秋冬向けは、昨年に在庫をさばききったアパレルが多かったことから、ダウンジャケット、トレンチコート、セーター、カットソー製品などの動きが好調だった。中国内販向けでも丸紅繊維〈上海〉(MTS)や菱華商業〈上海〉などが今年から事業を本格化。先行する住金物産は情報共有化システムの「WINDS(ウインズ)」を生かし、オンワード樫山など中国に散在する店舗への物流を整備、ICチップの導入なども検討している。伊藤忠繊維貿易〈中国〉(ITS)もレディースカジュアルの「ハニーズ」などの支援で内販向けの取り扱い高が増えてきた。

 ただ、日本向けで住金物産の西田外志雄執行役員中国総代表は「冬物の動きが暖冬で鈍く、追加注文が少ない」と指摘。店頭での売れ行きが、まだはっきりつかめないだけに来年への影響を不安視する。ITSの岩成斉営業第三部長は懸念材料に「旧正月の時期が中途半端」なことを挙げる。今年は旧正月を過ぎてからもまだ春物商戦への生産が間に合ったが、来春夏向けは旧正月前に生産を完全に終わらす必要があり、熾(し)烈な縫製キャパの取り合いが予想される。

 縫製拠点の確保で欧米向けとの競合が激しくなる一方、なかには内需向けを意識する縫製工場も増えてきた。例えばダウンジャケットの場合、これまで11月ごろから閑散期に入っていたが「12月までキャパの取り合いだった」(岩成営業第三部長)と、昨年より生産時期が大幅に伸びている。実際、現地企業から「細かい要望が多い日本向けより、内需向けの方がもうかる」との声もあり「今まで閑散期に発注していた福袋向けの商品ができなくなった」(商社関係者)との事態も発生している。

 もちろん、指をくわえて縫製キャパへの横やりを見過ごすわけではない。菱華商業〈上海〉は早めに対処してきたことで「競合からは逃れることができた」(妹背伸宏第一事業部長)。MTSは協力工場に品質管理(QC)技術者を派遣、工場の技術力を高めるとともに、工場自身に「他縫製工場への外注を承認したうえで管理を徹底させる」(杠俊彦製品管理部副部長)など、柔軟性を示しながら関係強化に努める。蝶理〈中国〉商業の榎本寿夫副総経理は「計画の面で現地アパレルはずさんな企業が多い。いったん、内需向けを引き受けた工場も再び日本向けにシフトしている」と、信頼面でまだまだ日本向けに優位性があるとの認識を示す。

 しかし、今後欧米への輸出規制が完全に撤廃され、縫製拠点を巡る競合はますます加速しそうだ。日本の優れたQC技術者も高齢化が進み、技術の継承も先行きが見えない。MTSの橋本雅至総経理は縫製工場について、コストを考えれば「拠点から2~3時間で行ける所が限界」と言い切る。

 ますます激しくなる縫製拠点の確保に加え、強まる小ロット・多品種・短納期の要望にどう対応していくか。ある商社関係者は、上げたくても上げることができない悲鳴を押し殺している現状が「アパレルへなかなか伝わらない」と、思わず本音を漏らす。