ピンチ脱出の兆し出る/浜松・蒲郡地区染色の周辺
2007年01月29日 (月曜日)
浜松、蒲郡産地全体に、尾州の二の舞いは避けねばならないという意識が急速に高まってきた。一昨年、尾州産地の整理加工場、糸染め染色が相次いで倒産、廃業に追い込まれたことによって、同産地では“販売機会ロス”が発生した。尾州のあるコンバーターによると、昨シーズンは寒かったのに加えて、国産ウール回帰の機運にも恵まれたが、「染色」がネックとなり、テキスタイルの商い量は20~25%落ち込んだとしている。綿産地においても、いつかはこうした事態が起こり得ると予測されており、発注者も染色加工賃の「修正」に応じるようになってきた。まだまだ、正常工賃には遠いが、ようやくピンチを脱しつつある(某染色加工場)のが現状のようだ。あとは、「量」の問題で、シーズンを問わず、コンスタントに85~90%の操業度を保ちたいのが本音。浜松・蒲郡地区染色の周辺を追った。
最大課題は工賃修正/受注消化へ残業再開も
蒲郡地区の染色加工場は、組合加盟企業が7社ある。織物染色は鈴寅、艶栄工業の2社が大手だ。糸染め染色は、藤浜染工と三河染色が産地テキスタイルのカギを握る存在である。
糸染めの大手である藤浜染工は今年1月から、久しぶりに残業を再開した。残業に伴う割増賃金を支払ってまでメリットがあるかどうかは別として、「発注先の要請に当面は応えていくしかない」と同社の藤田喜一郎社長は言う。同氏によると、地元のインテリア(カーテン)関係で大口成約が決まったという話は聞いていないのに、200キロ以下の小口発注が昨年12月中旬以降、にわかに増え始め、受注残がたまってきたので、1月から残業で受注を消化する羽目になったとしている。
インテリア関連の発注増によるものか、地元の発注が増えたことによるものかは定かでないが、どちらにせよリアルタイムで発注をこなしてこそ存在感につながる。この現象が一過性のものかどうかは、まだはっきりしない。しかし、1月に残業とは、うれしい誤算に違いない。
同社によると、ピーク時70人いた人員は現在35人に減ったのに対して、加工量は同65%程度あるが、利益は出にくいと説明する。その主因は重油の高騰であり、染料、助剤の値上がりもきつい。それらを糸染め工賃に転嫁できない悩みがある。織物染色、糸染め染色ともに、「染め加工賃をどう修正していくか」が今年の最大の課題と位置づけている。
日本形染、東海染工・浜松にみる/捺染、浸染の近況と対策
当地・浜松における捺染大手の日本形染と無地染め最大手の東海染工浜松事業所に、近況と2~3月の受注状況を聞いた。
捺染はいぜん低調な状態が続いており、染色加工賃の下落に歯止めがかかっていない。日本形染によると、昨年10~12月の加工実績は前年同期の80~90%、今年1月は同90~95%で、操業度はやや上がってきたという。
2月から3月にかけては、いぜん不透明ながら、4月決算に向けて28億円の加工売上高はキープしたいとしている。
同社はハワイ向けを主とする対米向けが好調で、全捺染加工量の30~35%を占めており、今後もハワイ市場のルートセールスをさらに強化していく方針だ。いぜん競争の激しい捺染だが、同社は同業他社の動向を気にせず「綿プリント世界一」を目指し、自企業のポジション取りに注力していく意向である。
他方、浸染(無地染め)大手の東海染工浜松事業所によると、今枝染工との企業統合により加工数量、加工賃収入は上向いている。2月18日から中国の旧正月入りとなるが、これまでの仕込み状況が不十分であることから、シーズンが4~5月にずれ込むと予想、加工納期の関係からみて短納期対応の連染ものが増えることに期待している。
同事業所では、次のようなイチ押し商品を前面に押し出していく。
■「メモリーコットン」
綿織物と綿交織織物の薄地・中肉にオーガンジー風加工を施したもの。テキスタイルによっては形態安定性を施した洗濯耐久性も付与できる。
■「オイルタッチ」
起毛商品ではヌバック風、ラスター加工やメモリーコットンではドライタッチの仕上がりがオイルタッチとなる風合い加工で、新鮮な触感がある。
■「NAVIC」
ソフトコットンの進化版で、ソフトさと膨らみを維持しながら色の深み、毛羽感のりりしさが特徴。
もう一点は最近、話題になりつつある光沢加工のラスター加工。同加工の特徴はセルロース繊維(綿や麻)テキスタイルに耐久性のある上品な光沢を持たせる加工だ。
織物の毛羽処理加工にノウハウがあり、スパンテキスタイルにもかかわらずフィラメントライクな風合いが得られる。
浜松の新加工開発に期待/豊島浜松支店長・戸松憲司氏
昨年の11月に大手生地コンバーターの当地浜松地区加工場への大口発注があって以降、これといった大口の発注はなく、年明け後は各加工場とも閑散としている。
2、3月にかけて、これらのリピートと最終に向けての駆け込み発注がどの程度あるのか、判然としないのが現状である。浸染、捺染ともに同様の状況で、綿プリントについては芳しくないと聞いている。染色加工場のスペースが大幅に減っているにもかかわらず、“絶対量不足”が続いていることになる。
国内テキスタイルビジネスが依然縮小の方向にあり、これに歯止めがかかっていない。大手商社や中堅紡績のテキスタイルからの撤退などと相まって依然難しい局面にあると言える。
こうした状況下で、活路をどう見いだすかが課題になる。品ぞろえを豊富にして、生機を手張りし、QRと加工をセットにして売るというようなシステムがないと、商いにつながりにくいのではないか。単に手張り、自己リスクということではなく、ある程度のトレンド予測や取り組み先とのコミュニケーションのなかで、リスク商品をそろえる必要が出てきている。
もう一つは、ファッション衣料向けテキスタイル以外の商材開発だろう。例えば、綿×麻の複合素材テキスタイルは帽子材や切り売り用に、そこそこ量がまとまっているのは事実である。
綿・レーヨン×ポリウレタン、レーヨン×ポリウレタンなど、レーヨン系テキスタイルと、綿シルク複合は流行しそうな兆候がある。綿×シルク複合のローンなどは、一部切り売り筋向けに初回商いとしての成約はできているが、それがリピートにつながり、商量が膨らんでいくどうかは、もう少し時間の経過を見たいところである。
当社は今、県内70%、県外30%の比率で発注しているが、県内、とくに浜松の4社には恒常的に発注するように努めている。
ただ、綿イコールカジュアルファッションの流れが止まり、きれいめ、エレガンスの流れにあって、合繊にシフトされる傾向は否めない。それだけに短繊維の織布、染色とも目先に明るさを求めるのは難しい。
春夏物の各社の混み具合は現状40~60%と言われ、時期がズレ込んでいる感じがある。3~4月に、にわか発注が増える可能性があり、一つの期待材料でもある。
浜松加工場の新加工開発に期待している一人であり、技術、加工開発を急いで、「浜松加工産地ここにあり」の意気込みに期待している。